artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

澤田知子「Sign」

会期:2013/03/02~2013/03/31

MEM[東京都]

1月~2月に同じギャラリーで開催した「SKIN」に続いて、澤田知子がまた新作を発表した、女性のストッキングに狙いを絞った前作と同様、今回も得意技のセルフポートレートは封印している。新たな領域にチャレンジしていこうという意欲が伝わる楽しい展示だった。
澤田はアンディ・ウォーホル美術館の依頼によって、同美術館があるアメリカ・ピッツバーグにある70あまりの企業のなかからひとつの会社を選び、コラボレートして作品を制作するというプロジェクトに参加した。彼女が選んだのは、トマトケチャップとマスタードの世界的なメーカーであるハインツ(HEINZ)社である。ウォーホルの「キャンベルスープ」シリーズへのオマージュを込めて、「トマトケチャップ」と「イエローマスタード」の容器を撮影した写真を、壁に整然と並べている。よく見ると、「トマトケチャップ」と「イエローマスタード」という製品表記が、日本語、ハングル、アラビア文字などを含む世界各国の言語に置き換えてあるのがわかる。その数は56種類。ハインツ社のマーケティングで使用されていた、ラッキーナンバーを含む57という数字よりはひとつ少ない。実は欠けている言語は、本家本元の英語の表記だという。そのあたりの徹底したこだわりがいかにも澤田らしい。細部までしっかりと作り込んである労作だ。
この「ポップアート的」な発想は、さらに大きく展開していく可能性を感じる。セルフポートレートの呪縛から自由になったことで、澤田の写真に対する姿勢が微妙に変わりつつあるようだ。ハインツ社に限らず、企業の製品の「リメイク」というのは、なかなか面白い可能性を孕んでいるのではないだろうか。

2013/03/15(金)(飯沢耕太郎)

現代への扉 実験工房展──戦後芸術を切り拓く

会期:2013/01/12~2013/03/24

神奈川県立近代美術館鎌倉+鎌倉別館[神奈川県]

実験工房は、戦後まもない50年代に活動した先端的な総合芸術のグループ。顧問の瀧口修造をはじめ、山口勝弘、駒井哲郎、福島秀子、武満徹、湯浅譲二、秋山邦晴と名前を列挙するだけでもすごさがわかる。にもかかわらず、少し遅れて関西で活動した具体美術協会と比べて評価も知名度も低い。それはなぜなのか、この展覧会を見てよくわかった。実験工房は音楽の占める割合も大きかったので、具体のようにアンフォルメルやアクション・ペインティングといった視覚的にインパクトのある大作を残さなかったからだ。いっちゃ悪いが、具体は頭を使う前に体を動かすというイメージがあるのに対し、実験工房はもっと知的に洗練されていた印象がある。あくまで印象だが。それに具体のリーダー吉原は関西商人らしく商売上手、宣伝上手だったのに対し、実験工房の瀧口はとても控えめのインテリだったから、あまり社会に浸透しなかったのかもしれない。いずれにせよ、展覧会にしてしまうと実験工房は見るべきものが少なく、具体の圧勝だ。そういう具体も後の再制作が多いが。ところで、別館で上映されていた松本俊夫の自転車の映像は、なにか心をくすぐるものがあるなと思ったら、円谷英二が特撮を担当したという。なるほど、自転車や車輪がぎこちなく宙を舞う奇妙な浮遊感は、のちの怪獣映画やテレビのウルトラマンシリーズなどに見られる中途半端な浮遊感に通じるものだ。

2013/03/15(金)(村田真)

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IRON ∞ MAN

会期:2013/03/13~2013/03/24

Creative Center Osaka(名村造船所跡地)[大阪府]

元造船所という特異なシチュエーションを舞台に、造船とゆかりの深い鉄を駆使する立体作家5名が展覧会を行なった。屋内では、タムラサトルが接点の動きにより無数の白熱灯が揺らぐように輝くタワー型のオブジェを展示し、角文平は鉄線のグリッドからなるビル状の立体内に住宅の賞オブジェを並べた作品などを発表。屋外では、橘宣行の巨大オブジェ《宇宙戦艦タチバナ》を先頭に、飯島浩二の鉄犬とサーカスのオートバイ曲芸のような作品、久保田弘成のボートを用いた大作が後に続いた。昨今珍しいストロングスタイルの展覧会。久々に痛快なカタルシスを味わった。

2013/03/15(金)(小吹隆文)

カタログ&ブックス│2013年3月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

平成24年度[第16回]文化庁メディア芸術祭受賞作品集

企画・編集:文化庁メディア芸術祭事務局(CG-ART協会内)
発行日:2013年02月12日
サイズ:A5版、368頁
価格:1,500円(税込)

今年度の全ての受賞作品、審査委員会推薦作品、功労賞の詳細、各部門審査委員の講評および対談を収録した受賞作品集。16年間のメディア芸術祭のあゆみが分かる年表付き。
文化庁メディア芸術祭サイトより一部抜粋]


路上と観察をめぐる表現史
考現学の「現在」

著者:松岡剛、中谷礼仁、内海慶一、田中純、石川初、南後由和、みうらじゅん、中川理、福住廉
発行日:2013年01月25日
発行所:フィルムアート社
サイズ:A5判、240頁
価格:2,310円(税込)

観察の名手たちと、「つくり手知らず」による、路上のマスターピース。今和次郎らが関東大震災を機に始めた「考現学」とは、東京の街と人々の風俗に注目し、生活の現状を調査考察するユニークな研究でした。その後、1986年に結成された路上観察学会をはじめ、「路上」の事物を「観察」することで市井の創造力に注目する活動が、現在にいたるまでさまざまな分野で展開されています。広島市現代美術館で開催される「路上と観察をめぐる表現史―考現学以後」展では、観察者が路上で発見した創作物をあらためて紹介するとともに、観察/発見という行為が「表現」に昇華する様子を検証します。本展の公式書籍である本書は、出品作家による作品図版・貴重資料はもとより、都市論、建築学、表象文化論、美術批評などさまざまなフィールドの論考やコラムを収録し、路上と観察をめぐる壮大なクロニクルを多角的に考察していきます。
フィルムアート社サイトより]


イメージの進行形
ソーシャル時代の映画と映像

著者:渡邉大輔
発行日:2012年12月20日
発行所:人文書院
サイズ:四六判、324頁
価格:2,415円(税込)

ゼロ年代批評の到達点にして、新たなる出発点 ネットを介して流れる無数の映像群と、ソーシャルネットワークによる絶え間ないコミュニケーションが変える「映画」と社会。「表層批評」(蓮實重彦)を越えて、9.11/3.11以後の映像=社会批評を更新する画期的成果、待望の書籍化。 ウェルズから「踊ってみた」まで、カントから「きっかけはYOU!」まで「今日のグローバル資本主義とソーシャル・ネットワーキングの巨大な社会的影響を踏まえた、これまでにはない新たな「映画(的なもの)」の輪郭を、映画史および視覚文化史、あるいは批評的言説を縦横に参照しながらいかに見出すかーーそれが、本書全体を貫く大きな試みだったといってよい。つまり、筆者が仮に「映像圏Imagosphere」と名づける、その新たな文化的な地平での映像に対する有力な「合理化」のあり方を、主に「コミュニケーション」(冗長性)と「情動」(観客身体)というふたつの要素に着目しつつ具体的な検討を試みてきたわけである。」 [人文書院サイトより]


梯子・階段の文化史

著者:稲田愿
発行日:2013年01月25日
発行所:井上書院
サイズ:B6判、192頁
価格:1,890円(税込)

古今東西にみる梯子・階段は、グランド・デザインに組み込まれたデザイン性の高いものから、日常生活に密着したごく素朴なものまで、その形態や用途も含めてさまざまで、その多くが後者のような民衆の文化や現実の生活に密着した存在であることが見えてくる。本書は、建築の発生のはるか以前から、風土や生活の必要性の中から生まれた梯子や階段について、370余点に及ぶ図版・写真等の絵的資料を中心に簡潔にまとめたものである。その誕生の時期や由来、用途、木工技術と材料、階段にまつわる数々の疑問点、家具としての歴史、安全性の考察等、古代から現代までの梯子と階段をあらゆる角度から詳述した唯一の書。
井上書院サイトより]


現代建築家コンセプト・シリーズ14
吉良森子 これまで と これから ― 建築をさがして

著者:吉良森子
企画・編集:メディア・デザイン研究所
発行日:2013年03月10日
発行所:LIXIL出版
サイズ:A5判、127頁
価格:1,890円(税込)

オランダを主な拠点に活躍する吉良森子は、長い時間のスパンのなかで建築を考えている。16世紀末から幾度も改修が繰り返されてきた「シーボルトハウス」や19世紀末に建てられた教会の改修を手がけた経験から、吉良は新築の設計を手がける際にも、その建築が将来の改修でいかに「変わる力」を持つことができるかを考えるようになったという。数十年、数百年の間、改修を重ねながら生き生きと使い続けられる建築とはどのようなものなのか。そこに至るまでの過去「これまで」と「これから」を生きていくクライアントや場所と近隣との出会いからひとつの建築が生まれる。土地や建築、歴史、かかわる人々との対話から始まる吉良森子の設計プロセスが丹念に描き出される一冊。バイリンガル
LIXIL出版サイトより]

2013/03/15(金)(artscape編集部)

プレビュー:グループ展「明るい反戦」

会期:2014/03/26~2014/04/01

PULP[大阪府]

東京で開催された路地と人での「楽しい反戦」がボリュームアップして大阪へ。約40人が表現する『あらゆる「戦」に反対する』。大橋裕之、小田島等、西武アキラ、山本哲也(POTTO)、ユリコフカワヒロ、BOM、fancomiのほかに、キングジョー、鬼頭祈、二艘木洋行、吉川英理子といった東西の若手とベテランが入り交じるにぎやかな展示の予感!

2013/03/14(金)(松永大地)