artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
「ラファエル前派からウィリアム・モリスへ」展

会期:2011/06/04~2011/07/14
目黒区美術館[東京都]
アーツ・アンド・クラフト運動になだれ込むイギリスの19世紀の動向は、学部時代に高階秀爾先生の美術史の講義を熱心に聞いていたことを思いだす。同展では、絵画だけではなく、フィリップ・ウェブやモリス商会の家具、ステンドグラス、室内装飾も展示されており、植物が重要な装飾のパターンとなった美術と建築の関係を楽しめる。
2011/07/10(日)(五十嵐太郎)
森山大道「オン・ザ・ロード」

会期:2011/06/28~2011/09/19
国立国際美術館[大阪府]
森山大道のような長いキャリアと高い知名度のアーティストの回顧展を開催する時には、大きく分けて二つのやり方があると思う。ひとつは順を追って、クロノジカルに代表作を並べていくオーソドックスな展示、もうひとつはむしろ積極的に作家の作品世界を解体=構築し、新たな解釈を打ち出していくやり方だ。前者は無難だが見慣れた眺めを見せられるだけになりがちだし、後者はその作家をずっとフォローしている観客にとっては新鮮味があるが、初めて見る者にとっては混乱をもたらすことになる。つまりどちらも一長一短があるわけで、両方の可能性をバランスよく追求していくキュレーションが必要になるということだ。
今回の森山大道展に関していえば、そのバランスがかなりうまくいっているように感じた。観客はまず「東京」と題する、大伸ばしのデジタル・カラープリントがぎっしりと隙間なく並ぶ部屋に導かれる。このシリーズは森山の最新作であり、いきなりこの写真家の表現の生々しい「現在形」が突きつけられるのだ。さらに「ブエノスアイレス ハワイ 記録」「新宿」と2000年代以降の作品が並ぶ部屋が続く。照明は暗く落とされ、作品の一点一点がスポットライトに照らし出されて白熱した光を発しているように見える。そしてそこから先はやや小さく区切られたスペースに、1968年のデビュー写真集『にっぽん劇場写真帖』から始まって、『狩人』『写真よさようなら』『遠野物語』『続にっぽん劇場写真帖』『光と影』『仲治への旅』『サン・ルゥへの手紙』『Daido hysteric』『COLOR』と主要な写真集の掲載作が並んでいる。つまり、現在の森山大道の写真家としての営みをクローズアップして見せるパートと、クロノジカルに表現の変化を追うパートとを組み合わせることで、この写真家に特有の「路上」における眼差しや身振りのあり方が、立体的に浮かび上がってくるように仕組まれているのだ。
強く感じたのは、森山の写真が与えてくれる「そこに何ものかが生成しつつある」という独特のドライブ感である。どの写真を見ても、画面のあらゆる細部から、震え、うごめき、うねり、伸び縮みする生命力の波動が伝わってくる。そのアニミスム的なエネルギーの放出のあり方は1960年代の初期作品でも、最新作の「東京」シリーズでもまったく変わらない。「路上」は彼にとって、あらゆる生命の母胎となる大いなる混沌なのだ。
2011/07/10(日)(飯沢耕太郎)
epiphany─世界を発見する方法─

会期:2011/07/08~2011/07/18
中之島デザインミュージアム de sign de >[大阪府]
コンピューターや音響機器の特性を利用して批評的なサウンドアートをつくり出す高橋卓久真、サミュエル・テイラー・コールリッジの詩とギュスターヴ・ドレの挿絵をモチーフにしたインスタレーションを行なった岡田真希人、画家が絵を描いている姿の自画像を無数に複写、コラージュして絵画と写真の中間のような触感を持つ作品をつくり上げた来田猛。3人の作品を個展形式で同時に展覧した。いずれもユニークで質の高い展示を行なったが、私が最も驚いたのは来田の作品。最初に見た時は写真とは思えず、絵画なのにこのツルリとした表面はどういうことかと訝ったぐらいだ。今年2月に行なわれた京都市立芸術大学の作品展でもユニークな作品を発表し、話題を集めた来田。彼の引き出しには、まだまだ驚きのネタが隠されているのかもしれない。
2011/07/10(日)(小吹隆文)
飯田淑乃 展

会期:2011/07/09~2011/07/30
CAS[大阪府]
照明が落とされた空間には8点の写真が並んでいる。ナレーションが始まると、物語の展開に沿って1点ずつにスポットが当たり、最後には壁面に映像が投影される。物語はネズミを主人公にした昔話風のもので、明らかに先の大震災からインスパイアされていた。飯田はこれまで自分自身が特定のキャラクターになり切る作品を発表してきたが、新作はそれらとは大きく異なる。彼女の新たな側面を垣間見ると共に、ナレーションの上手さにも驚かされた。
2011/07/10(日)(小吹隆文)
クイーンズランド州立美術館

[オーストラリア]
大会における戦後日本建築のセッションが終わった後、飯田志保子さんにクイーンズランド州立美術館を案内していただく。アジア圏の現代美術の収集に力を入れており、1993年以降のトリエンナーレのたびに全作品を購入している。これまでのコレクションだけでも相当な企画展ができるほど、量が多いという。また映像の分野も充実している。建築はジャン・ヌーヴェルのルツェルンの文化センター風だが、内部に街路感覚のストリートを十字に取り込む。これは隣接するほかの文化施設とつながっており、都市計画と連動したデザインである。
2011/07/08(金)(五十嵐太郎)


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