artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
名和晃平─シンセシス

会期:2011/06/11~2011/08/28
東京都現代美術館[東京都]
2003年、筆者が審査員をつとめたキリンアートアワードで彼が受賞したとき(当時はまだ食えなくて、バイトをやっていた)、受賞展を担当していたので、ついに都現美で個展を開催したことは感慨深い。これまで見てきた懐かしい作品のほか、「PRISM」のシリーズは当初に比べて、さらに精度に磨きをかける一方、新しく二重化のモチーフが出現し、情報化時代の造形のあり方の先端を切り開く。また各部屋の空間のつくり方にも細かい気配りがなされていたことにも感心させられた。
ちょうど常設の特集展示では、若いときから渦の生成にこだわり、ドローイング・アニメーションを展開する石田尚志がとりあげられていたが、名和展との同時開催は比較できて興味深い。石田がアナログ寄りで、名和がデジタルな感性に近いことがよくわかる。理科系アートでありながら、センシュアルな名和作品は、建築系にもおすすめだ。
2011/06/26(日)(五十嵐太郎)
サイレント・ナレーター──それぞれのものがたり
会期:2011/06/11~2011/10/02
東京都現代美術館常設展示室3F[東京都]
常設展示室3階では、新収蔵作品12点を含む計30点の展示。なにが新収蔵されたかというと、泉太郎、落合多武、加藤泉、小泉明郎、小金沢健人、森淳一という若手作家の映像系の作品をはじめ、絵画・彫刻など。なぜか名前に泉がつくのが3人もいる。もちろん偶然だろうけど、気になるなあ。で、この6作家12点を核にテーマ立てを考えたところ、「物語」が浮上したんでしょうね。勝手な憶測ですが。このなかでは泉太郎のビデオインスタレーションと森淳一の大理石彫刻が、知性においても群を抜いている。森と泉だ。
2011/06/25(土)(村田真)
吉野辰海 展

会期:2011/06/20~2011/07/02
ギャラリー58[東京都]
切断されたブタ(の剥製)の断面がハムになっていたり(吉村益信)、巨大な金属の耳ばかりつくったり(三木富雄)。ネオダダの連中には身体をモチーフにしたグロテスクな作品が多いが、なかでもひときわグロテスクで意味不明なのが吉野辰海の犬だ。今回ますます迷走度を高め、顔は犬だが後頭部はゾウ(反対にゾウが顔で後頭部が犬というのもある)、しかも皮が剥がれて濃いピンク色をして、身体は裸の少女というワケのわからないものをつくっている。これを「抑圧された動物的本能の側からの合理主義的思潮に対する意趣返し、もしくは肉体や情念の側からの主知主義的モダニズム美術に対する逆襲」(三田晴夫)と読む者もいて、なるほどなあと思う一方で、そんな深読みは逆に作品を矮小化するのではと思ったりもする。だってこんなにワケのわからないものをつくれるだけで尊敬しちゃうもん。ならば好きかと問われればノーといわざるをえないが。
2011/06/25(土)(村田真)
母袋俊也 展:Qf・SHOH《掌》90・Holz──現出の場─浮かぶ像─膜状性

会期:2011/06/13~2011/06/25
ギャラリーなつか[東京都]
ギャラリー内にもうひとつ展示室をつくって内壁を黒く塗り(ホワイトキューブならぬブラックボックス、あるいはカメラ・オブスクラ?)、正面に1点だけ絵を設置。絵は正方形で、画面にはルブリョフのイコンや阿弥陀如来の掌を組み合わせた図像が描かれている。絵に厚みが感じられないので近づいてみると、画面より底面が狭くなるように側面が斜めに削られている。つまり闇のなかに画像だけが浮かび上がる感じ。脇に回ると、絵の掛けられた壁の後ろあたりにのぞき穴があり、のぞいてみると光しか目に入らない。もしそこにヌードが見えたら喜ぶ人もいるだろうが、母袋はそんなサービスはしない。ただ光があるだけ。これって、先史時代の洞窟壁画を思い出させないか。洞窟の闇のなかに描かれた動物の絵は、岩壁の奥にいるであろう動物の神と交信するために描かれたとする説があり、そうだとすると視線は絵の描かれた壁を貫いてあちら側に向かい、逆に神(光)は壁の奥から絵というスクリーンを通ってこちら側へ現われるはずだ。そのとき、絵はこちら側とあちら側の界面に現出する幻像のようなものかもしれない。これは洞窟壁画だけでなく、洞窟を模したといわれるキリスト教会の聖画にも当てはまるだろう。絵をタブローという単体で考えるのではなく、「絵」が現出する場として提示すること。はたしてこれは「プレ絵画」なのか、それとも「ポスト絵画」なのか。
2011/06/25(土)(村田真)
シンポジウム「アート × 建築 × 震災後」(大木×彦坂尚嘉×五十嵐)

会期:2011/06/25
Art Center Ongoing[東京都]
乱れた自分の部屋をそのまま会場に持ち込んだかのような、吉祥寺の大木裕之展「うちんこ!」に連動して開催されたトークイベント。大木さんは東京大学の建築学科の先輩にして映像作家である。今回初めて、彼の街の風景を扱う卒計から初期の映像作品「松前君」シリーズに展開していたことを知った。そして卒計では、槇文彦さんと三時間議論し、君のは建築ではないと言われたらしい。なお、卒論には映像も使用したという。
2011/06/25(土)(五十嵐太郎)


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