artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
写真家・東松照明 全仕事

会期:2011/04/23~2011/06/12
名古屋市美術館[愛知県]
会期ぎりぎりで、なんとか間に合って見ることができた「写真家・東松照明 全仕事」展。タイトル通り、デビュー作の《皮肉な誕生》(1950)から、沖縄・那覇をデジタルカメラでスナップした近作まで、名古屋市美術館の全館を使って500点以上の作品が並ぶ大規模展である。「記憶の肖像、廃墟の光景」「占領/アメリカニゼーション」「投影──時代と都市の体温」「長崎──被爆・記録から肖像へ」「泥の王国」「太陽の鉛筆──沖縄・南島」「“他者”としての日本への回帰──京・桜」「“インターフェイス”──撮ることと作ること」という8部構成は、東松の代表作を時間軸にそってほぼ全部フォローしており、ここまでかゆいところに手が届くような展覧会は、これまでなかったのではないだろうか。
ただ、これだけの量になると、観客は互いに衝突し、さまざまな方向に伸び広がり、飛び散っていくイメージのカオスに巻き込まれてしまって、ほとんど呆然としてしまうしかない。僕のように東松の作品をずっと見続けてきた者でもそうなのだから、初めて彼の写真に接するような観客にとっては、「この写真家は何者なのだ?」という疑問が深まるだけではないだろうか。むしろ、もう少しテーマを絞り込み、たとえば最後のパートで提示された「撮ることと作ること」という、東松の、対立的でありながらどこかつながってもいる問題意識に焦点を合わせて展示全体を再構築していくのも面白かったかもしれない。《ゴールデン・マッシュルーム》(1990~92)、《キャラクター・P 終の住処》(1996~98)、また1960年代に制作された《オリンピック・カプリッチオ》(1962)、《廃園》(1964)といった、いわゆる「メイキング・フォト」系の作品群については、これまであまり系統立ててきちんと論じられてこなかったからだ。それにしても、見れば見るほど謎が深まっていく東松照明という写真家の、どこか狂気じみた迷宮性を、あらためて強く感じざるをえない大展覧会だった。
2011/06/10(金)(飯沢耕太郎)
舩井裕 回顧展

会期:2011/06/07~2011/06/25
アートコートギャラリー[大阪府]
昨年6月に逝去した舩井裕。本展では彼の代表作である版画の連作やコラージュ作品、50数年ぶりに公開された油彩画など、約150点が展示された。洗練とユーモアをたたえた版画の連作はもちろんだが、ビニールシート、麻袋、板などをキャンパスに貼り付けて一部を焦がしたコラージュ作品も、圧倒的な存在感があって素晴らしい。画廊での展覧会にしては珍しい全64ページの図録も、秀逸な出来栄えだった。
2011/06/08(水)(小吹隆文)
瀬戸正人「binran」

会期:2011/06/03~2011/06/26
BLD GALLERY[東京都]
瀬戸正人の「binran」のシリーズは、2008年にリトルモアから写真集として刊行されている。これまで、瀬戸自身が運営するPLACE Mで展示されたことはあるのだが、写真集を含めてそれほど評判にはならなかった。僕は以前からなかなか面白い仕事だと思っていたので、銀座のBLD GALLERYであらためてきちんと見る機会ができたのはとてもよかったと思う。
ビンラン=檳榔とは、台湾をはじめ東南アジア各国で広く嗜好品として用いられる木の実のことだ。ずっと んでいると赤い汁が出てきて、噛みタバコのような軽い神経の興奮を覚える。若い女の子を売り子に、そのビンランの実を売る小さな店が、1990年代以降、台北などの都市の郊外に急速に増えてきた。瀬戸が集中して撮影したのは、四角いガラスの金魚鉢のようなブースに、ミニスカートの、あられもない格好をした女性たちが座って客を待っている、その「ビンラン・スタンド」の光景である。
瀬戸の代表作であり、1996年に木村伊兵衛写真賞を受賞した「部屋」のシリーズもそうなのだが、彼の手法は「ディテール主義」とでも名づけることができるだろう。大判、あるいは中判カメラの克明な描写力を活かして、それほど広くない空間を、文字通り細部まで舐めるように撮影していくやり方だ。その手法はこの「binran」でも見事に活かされていて、カラー・プリントにくっきりと浮かび上がってくる、女の子たちのきらびやかだが哀切感が漂う衣裳、幼さと開き直りが同居する表情、中・洋折衷のキッチュなインテリアなどの取り合わせが実に面白い。西欧的なポップ・カルチャーが土着化していく過程の見事な実例といえるだろう。なんとも奇妙なたたずまいの「ビンラン・スタンド」それ自体が、現代美術のインスタレーションのようにも見えてくる。
2011/06/07(火)(飯沢耕太郎)
村山幸子の世界

会期:2011/06/07~2011/06/12
ギャラリーマロニエ[京都府]
画廊の3階から5階を使った大規模な個展。還暦を迎えた作家にとって、集大成的な意味合いを持つ。5階では古着や端切れなどを用いた大規模なインスタレーションを展開(画像)。4階では1980年代に制作した、さまざまな素材でつくられたコスチュームを、実物と写真で紹介。3階は一転してひょうきんな張り子が並んでいた。あまりにも作風が違う張り子はともかく、5階と4階は見応えたっぷり。画廊メインで活動する作家は過去作品を振り返る機会が少ないので、貴重な機会と言える。ほかのベテランにも是非真似をしてほしい。
2011/06/07(火)(小吹隆文)
風穴 もうひとつのコンセプチュアリズム、アジアから

会期:2011/03/08~2011/06/05
国立国際美術館[大阪府]
欧米中心的な文脈で成立してきたコンセプチュアル・アートに異なる角度からアプローチしようと、「アジア」という切り口で9組のアーティストの活動が紹介された展覧会。木村友紀、contact Gonzo 、プレイ、島袋道浩、立花文穂ら日本の作家のほか、タイのアラヤー・ラートチャムルーンスック、ベトナムのディン・Q・レー、中国の邱志傑(チウ・ジージェ)、韓国のヤン・ヘギュが出品。それぞれの作品が孕む批評性や、問いかけの解りやすさもさることながら、日常とかけ離れていない題材やモチーフが多いせいか、多かれ少なかれどの作品にもどこかユルい雰囲気があって単純に楽しい。特にチェンマイ郊外の村人達が戸外でマネの《草上の昼食》やミレーの《落穂拾い》の「複製」を鑑賞する様子を撮影した、アラヤー・ラートチャムルーンスックの三つのビデオ作品は、勝手気ままに繰り広げられる村人たちの会話がじつに愉快で見飽きない。今展の「風穴」というタイトルにもイメージが重なる爽快な風を感じる作品だった。
2011/06/05(日)(酒井千穂)


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