artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

森口ゆたか──あなたの心に手をさしのべて

会期:2011/04/29~2011/06/26

徳島県立近代美術館[徳島県]

2006年以降に制作された近作4点と、大阪市立大学医学部附属病院とのプロジェクトで制作された1点、本展のために制作された新作1点の計6点で構成。いずれも映像や写真を駆使したインスタレーションだ。人間の手や絡み合う紐をモチーフにした作品からは、人を愛しいと思う気持ちやその交感が滲み出ており、現代美術の歴史やルールを知らない人が見ても素直に受け入れられるだろう。近作の4点も、以前関西の画廊や美術館で展示されたときとは異なるセッティングが施されており、鑑賞経験がある私も新鮮な気持ちで接することができた。派手さはないが、味わい深い展覧会だ。

2011/06/19(日)(小吹隆文)

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BankART AIR Program 2011 OPEN STUDIO

会期:2011/06/17~2011/06/26

BankART Studio NYK[神奈川県]

横浜のBankARTのアーティスト・イン・レジデンスのプログラムはかなり面白い。黙々とレース編みを続けているアーティスト(樋口昌美《ド イリ ー》)がいたり、漫画雑誌を「苗床」にしてカイワレ大根を育てていたり(河地貢士《まんが農業》)、ユニークな作品を楽しむことができる。この玉石混淆の雰囲気が、会場に活気をもたらしているように感じるし、50人(組)弱のアーティスト同士もいろいろ刺激を受けるのではないだろうか。
その会場の一角に、BankART Schoolの飯沢ゼミの有志が、「いまゆら(イマ・ユラギ・ツナイデ)」というスペースで参加している。毎週「ポートフォリオを作る」という授業を続けている最中に、「3・11」の大震災が起こったことは、彼らにとっても講師をつとめていた僕にとっても大きな出来事だった。だが、そのことが「反転した日常を写真とポートフォリオで検証する」というテーマの設定につながり、皆の力を集めてクオリティの高い展示を実現することができた。リーダーの若林ちひろさんをはじめとする13人の参加者にとっては得がたい経験だったのではないだろうか。6月18日には震災直後に宮城県太平洋沿岸に入って写真を撮影し、いち早く『hope/TOHOKU』というフォト・ブックをまとめた菱田雄介を迎えて、トークイベントが開催された。これから先、多くの写真家たちが復興の過程を長期戦で粘り強く記録していくと思うが、菱田の仕事はまさにそのスタートラインといえるだろう。
なお、『hope/TOHOKU』は僕の文章とあわせて再編集し、8月に『アフターマス 震災後の写真』(NTT出版)というタイトルで刊行する予定だ。いまその編集作業を進めているのだが、そこでは震災によって見えてきた写真を撮り続けることの意味を、あらためて問い直していきたい。

2011/06/18(土)(飯沢耕太郎)

WHITE 桑山忠明 大阪プロジェクト

会期:2011/06/18~2011/09/19

国立国際美術館[大阪府]

美術館の常設展示室を3分割し、それぞれの部屋に真っ白な同一形態の平面作品が連続するインスタレーションを展示した。作品の表面は和紙で覆われており、ほんのりとした柔らかさが感じられる。桑山作品といえば無機質で金属的な印象が強いので、この感触は意外だった。ただし、桑山は1960年代以来、同様の作品をずっとつくり続けており、本作も決してイレギュラーではないそうだ。平面作品の点数は60点、1点のみ1963年制作で、ほかはすべて新作である。細部まで計算し尽くされた空間は堅牢で、意味を考えることすら跳ね返すほど隙がない。「インスタレーション」よりも「空間彫刻」と漢字で表現したくなったのは、私だけだろうか。

2011/06/18(土)(小吹隆文)

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木版画コンテンポラリー

会期:2011/06/07~2011/06/19

ギャラリーモーニング[京都府]

石川丘子、グドラ・ペータース、田村洋子、本田このみ、三上景子ら5名による版画のグループ展。石川丘子は最近知ったばかりの作家なのだが、水彩木版の色彩と紙の風合い、描かれた川や山の風景の輪郭が曖昧に溶け合うような作風が美しく印象に残る。どこか懐かしさを感じさせる日常的なモチーフや色に作家のマニアックな趣向もうかがえる本田このみの《絶滅危惧物》というシリーズもユニーク。色の重なり、削られた線からうかがえる彫刻刀のリズムやピッチ、予期せぬシミなど、版画のさまざまな要素や一枚ごとに表われるそれぞれの表情は見比べるのも面白い。版画の展覧会はこうして長居をしてしまう。

2011/06/17(金)(酒井千穂)

ワシントン・ナショナル・ギャラリー展

会期:2011/06/08~2011/09/05

国立新美術館[東京都]

ロシアを含めた欧州の美術館が軒並み作品の貸し出しを渋るなか、印象派コレクションをポンと貸し出すとは、さすがアメリカは太っ腹。ま、それだけ放射能に関して正確な情報をつかんでるんでしょうね、日本以上に。そっちのほうがコワイな。で、やってきたのはコローからロートレックまで計83点。バルビゾン派やブーダンののどかな風景画に続き、マネの《オペラ座の仮面舞踏会》で目が洗われる。小品だが、近代的都市生活を描いた主題といい、黒を基調とした色彩といい、白い床と柱で画面を枠どる構図といい、まさにモダン絵画。さらに《鉄道》《プラム酒》と続き、ここが最初のピーク。だとすれば、中盤のピークはやはりモネ。なかでも《日傘の女性、モネ夫人と息子》は本当に輝くような明るさだ。版画や水彩をはさんで、終盤はセザンヌ、スーラ、ゴッホらが目白押しだが、1点あげるとすればセザンヌの《赤いチョッキの少年》。いつまで見ていても見飽きることがない。ほかにもバジールやカイユボットらあまり紹介される機会の少ない画家や、メアリー・カサット、ベルト・モリゾら女性画家も何点かずつ出ていて満足度は高い。試みに、1999年に開かれた「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」のカタログを引っぱり出してみると、印象派を中心に出品数も85点とほぼ同じで、ざっと数えてみたら20点以上が重なっていた。99年のほうは版画や水彩がないかわりに、ティツィアーノやフェルメールなどの古典絵画と、マティス、ピカソら20世紀絵画が含まれていて、今回よりお得感があるなあ。

2011/06/17(金)(村田真)

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