artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
森田麻祐子 展「ニッチャンの日課」

会期:2011/06/03~2011/06/09
BAL gallery 33[兵庫県]
神戸のファッションビルの中にあるギャラリーで開催された個展。過去作と新作を合わせた発表だったが、個人宅の一室のような窓やソファのある展示空間が森田の作品世界によく似合っていた。森田が描く女の子や動物のモチーフ、パステルカラーの色彩などからは一見「かわいい」という言葉が真っ先に浮かんでくるのだが、画面にはいつも幾何学的なパターンや音楽的な要素が織り込まれ、例えばまるでフーガの楽曲を聴いているような楽しさやパズルを組み合わせて遊ぶときのような面白さがある。各作品は独立したイメージでもあるのだが、描かれた形や色には連関した要素があり、見る者は自由にそれぞれを組み合わせた物語を想像することができる。私がこれまで見たなかでもっとも広いスペースでの個展であった今展、訪れた人たちがみんな長居しているのも印象的だった。

会場風景
2011/06/04(土)(酒井千穂)
任意の点を「R」とした展覧会
会期:2011/06/04~2011/06/19
竜宮美術旅館[神奈川県]
竜宮美術旅館は、横浜の日ノ出町にある和洋折衷のラブホ(時代的に「連れ込み旅館」というべきか)を改装したアートスペース。外壁は赤と白で装飾され、風呂場や水回りには魚や女性のレリーフが飾られている一見の価値あり建築だ。その竜宮(=R)を中心に1キロ圏内でゲットした素材を作品に採り入れるという条件で、横浜界隈で活動するアーティスト9人が参加。和室で福島原発の葬式を行なった今井紀彰、畳の上にミラーボールの屏風を置いたタムラタクミ、ペインティングに駄菓子屋で買ったゴム製ウンコをちりばめた吉井千裕、廊下に巨大な剣を突き刺した杉山孝貴など老若男女、テーマも形式もさまざま。むしろこの多様性が奇妙な建築空間と相まって、展覧会の強度を高めているように思えた。あ、ぼくも小品を出してました。
2011/06/04(土)(村田真)
ポップ?ポップ!ポップ♡
コレクションに見るポップなアートの50年

会期:2011/04/29~2011/06/19
和歌山県立近代美術館[和歌山県]
ポップ・アートの代表作や、その影響が感じられる現代の作品など100点以上を展覧。2000年代以降の作品のなかには、「これをポップ・アートの文脈に入れてもいいの?」と疑問に思うものもあったが、そこは寛容に解釈することにした(タイトルに「ポップなアート」と記されているのは、そのためか?)。和歌山近美は関西の美術館のなかでも屈指の常設展示室を持っているが、コレクションも同様に質が高い。中途半端な企画展よりも見応えのある展覧会だった。
2011/06/04(土)(小吹隆文)
ポンペイ展 ~世界遺産 古代ローマ文明の奇跡~

会期:2011/02/10~2011/06/05
仙台市博物館[宮城県]
大学院の時にポンペイ、その後にもうひとつの消えた町エルコラーノも訪れた。また、なぜか日本では三年に一度はポンペイ展を開催しているので、通常なら行かなかったと思うのだが、震災時に仙台でポンペイ展が開催されていたことに奇遇を感じ、終了間際に足を運ぶ(ただし、今回は、現地の展示やポンペイ展でよく目玉になる、火山灰で亡くなった犠牲者の身体が空洞になり、そこに石膏を流して最期の姿を彫刻化したものはなかった)。実際、やけに塀や門構えだけが残ってしまった蒲生など、仙台の被災地にはポンペイのような風景が出現した。改めて当時のフレスコ画は、色があせずに二千年もよく残ったと感心する。現代のデジタル化された情報はどうなるのだろうか。ちなみに、仙台市博物館も被災しており、まだ完全復活していなかった。
2011/06/03(金)(五十嵐太郎)
野村佐紀子 展

会期:2011/06/02~2011/06/17
野村佐紀子はこのところphotographers’ galleryで毎年個展を開催しているが、それもいつのまにか4回目になった。展示を重ねていく間に、以前の彼女の写真とは違ったスタイルの表現の形が生まれつつあるように思う。
野村の代名詞といえるのは、プライヴェートな空間で、闇の中に溶け込んでいくような男性ヌードだが、photographers’ galleryでの展示では、その前後に風景、オブジェ、スナップなどの写真群がつけ合わされ、写真家の移動の軌跡や感情のざわめきが浮かび上がってくる「物語」的な構造が模索されている。その試みは、今回の展示作品でほぼ完成の域に達したのではないだろうか。白木のフレームにおさめられた18点の写真を目で追っていくうちに、不思議な余韻を残すイメージの流れに誘い込まれていくような気がしてくる。写真の大きさ(2点だけがやや大きく引き伸ばされている)のバランスや、カラー(4点)とモノクローム(14点)の配合もうまくいっていて、野村の視線と見る者の視線が自ずと同化していくような感覚を味わうことができた。野村が荒木経惟のアシスタントとして写真の世界に飛び込んでから20年が過ぎ、師匠とはやや違った、ゆったりとした時間の流れを含み込んだ「物語作家」のスタイルが身についてきているように感じる。
なお、photographers’ galleryの隣室のKULA PHOTO GALLERYでも、野村の個展「REQUIEM」が開催されていた。旧作の男性ヌード10点と、森の風景とカーテン越しに差しこむ光を捉えたカラー作品が2点。男性ヌードは入稿用の原稿なのだろう。赤いペンでの描き込みやナンバリングの数字がある。本人に確認できなかったのだが、おそらく何か鎮魂の意味を込めた展示なのだろう。こちらも、囁きかけるように静かに語りかける野村の声が聞こえてきそうな、いい展示だった。
2011/06/03(金)(飯沢耕太郎)


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