artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
朝海陽子「sight」/「Conversations」
「sight」AKAAKA[東京都]2011年1月15日~2月19日
「Conversations」無人島プロダクション[東京都]2011年1月15日~2月26日
赤々舎から写真集としても刊行された朝海陽子の「sight」は、見ていてさまざまな楽しみを味わわせてくれるシリーズだ。写真に写っているのは、部屋の中で何かを熱心に見つめている人たち。年齢も人種もさまざまで、ひとりの場合もグループになっていることもある。いったい彼らは何を見ているのかという謎解きは、タイトル(キャプション)によって明らかにされる。『バンビ』『エデンの東』『勝手にしやがれ』『三丁目の夕日』……。要するに彼らはホームビデオでお気に入りの映画を鑑賞中なのだ。何ごとかに没入している人(なかにはそうでもない人もいるが)の姿をそっと覗き見るのは、なかなかスリリングな行為だ。それとともに,そこに写っている人たちの出自やライフスタイルを、インテリアや服装から想像していく楽しみもある。東京や横浜だけでなく、ベルリン、ウィーン、ロンドン、ソウル、ニューヨーク、ロサンゼルスなど6カ国9都市で撮影されているので、比較文化論的な分析の対象にもなりうるだろう。
この完成度の高いシリーズと比較すると、無人島プロダクションで展示されている新作「Conversations」は、まだ発展途上という印象を受けた。こちらはいろいろな研究にたずさわる若い科学者たちを、彼らのラボラトリーで撮影しているのだが、写真から見えてくる情報が均質なのでどうしても似通って見えてしまうのだ。そのことを踏まえて、朝海は自分自身の旅の経験と彼らとの会話から展開するイメージをつなげていく組写真も試みている。こちらはかなり面白くなりそうだが、まだ数が少なく試行錯誤中のようだ。「sight」のようにコンセプトと内容がしっかりと固まってくるまでには、もう少し時間がかかるのではないだろうか。
2011/01/21(金)(飯沢耕太郎)
大遠藤一郎展『未来へ』・ライブペインティング
会期:2011/01/21
island MEDIUM[東京都]
大遠藤一郎展『未来へ』と称する展示が、都内と千葉・柏の六カ所で催されている最中、遠藤一郎がライブペインティングを行なった。約50分。ギャラリーの壁一面に貼った板を柔らかくなでた後、突然会場を抜けると戻ってきた遠藤は、手にしたキャンバスを壁の中央に固定していった。はしごを登ってまず書いたのは「We are alive on the earth.」「We are family in the world.」「Let's make the big ring for our future.」。次に、カラフルな絵の具の缶に手を突っ込んで、板を叩き、さらに、的のような何重かの円を描いていった。けっして否定的な意味ではなく、遠藤のパフォーマンスにはオリジナルな要素はない。むしろ、篠原有司男?ジャスパー・ジョーンズ?ボイス?などと、美術史の意匠が想起させられる。あるいは、最後に黄色の文字で書いた「自由」は、あまりに手垢のついた言葉に思われる。「未来」というフレーズとは対照的に、遠藤の行為からは、さまざまな「過去」の記憶が呼びさまされる。きわめつけは、壁との格闘が一段落すると、観客に手拍子を求めたかと思ったら不意に歌い出した「ひょっこりひょうたん島」。遠藤は、過去の遺物(「レディ・メイド」と言い換えてもいいだろう)を取り出しながら、それらをあらためて活性化させようとする、それも〈ノーテク〉で。芸術を芸術らしく見せるアイロニーでもジョークでもなく、とはいえそれらをちゃんとかすめ通りながら、遠藤が現出させようとするのは、すべてをご破算にした後に残る本当に大事ななにかだろう。それがなになのかを明示することは遠藤の役目ではない。ただ遠藤の身体が発する熱気によって、その本当に大事ななにかを目にしたいという気持ちが刺激される、まるで魔法の起こる瞬間を期待するように。「自由」の一文字はそうした(蛇行を経た末の)真っ直ぐな思いへ向けられているに違いない。
2011/01/21(金)(木村覚)
藝大先端2011
会期:2011/01/15~2011/01/23
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
絵画、映像、インスタレーション、文章、パフォーマンスと、よくも悪くもなんでもありの先端芸術表現科の卒展と院の修了展。初期のころ散見されたハンパな愚作は影をひそめ、みんな驚くほどレベルが高い。先生も熱心だ。しかし教官の指導よろしく軒並み平均点以上の作品を生み出す教育って、先端らしくないんじゃね? まあ時代は変わったのかもしれないが。そんな時代の流れにムダな抵抗を試みるオヤジにウケたのが、焼け崩れたような巨大ロボットの残骸をつくった笹川治子のインスタレーションだ。僕はてっきり焼け落ちた戦艦かと思ったが、どっちにしろそんなもん修士制作でつくるか。世に顧みられない、どうでもいいようなものに対する彼女のシニカルかつ愛情あふれる視線に共感して、新たにM.M賞だ。
2011/01/20(木)(村田真)
福嶋さくら“from yesterday”
会期:2011/01/15~2011/02/06
Bambinart Gallery[東京都]
案内状にはメルヘンチックな絵が刷られていたのでパスしようかと思ったが、せっかくなので入ってみたらちょっとおもしろかった。綿布に家や花や遊具などがポツンと寂しげに描かれているのだが、よく見ると背景の空や地面は絵具でざっくり塗ってあるのに、家とか花とか図の部分は絵具ではなく、さまざまな色の刺繍糸で縫っているのだ。布に色彩をのせていく絵画も還元すれば「塗る」と「縫う」という行為に行きつく。そんなことを思い起こさせる作品。
2011/01/20(木)(村田真)
藤原彩人──心ここにあらず
会期:2011/01/08~2011/02/07
3331ギャラリー[東京都]
陶による彩色人体彫刻。床置きの半身像もあれば、壁掛けのレリーフ彫刻もある。手前には高さ10センチ程度の人物像が数十点並んでいて、老若男女貧富貴賤白黒茶色それぞれ個性を持たせている。柔らかくて100年も経たずに消えてしまう人間の姿を、数千年も数万年も変わらぬ色とかたちを保つ陶で残そうとしているのだろうか。あるいは100万年後に地球を訪れるかもしれない宇宙人へのお土産?
2011/01/20(木)(村田真)