artscapeレビュー

大遠藤一郎展『未来へ』・ライブペインティング

2011年02月01日号

会期:2011/01/21

island MEDIUM[東京都]

大遠藤一郎展『未来へ』と称する展示が、都内と千葉・柏の六カ所で催されている最中、遠藤一郎がライブペインティングを行なった。約50分。ギャラリーの壁一面に貼った板を柔らかくなでた後、突然会場を抜けると戻ってきた遠藤は、手にしたキャンバスを壁の中央に固定していった。はしごを登ってまず書いたのは「We are alive on the earth.」「We are family in the world.」「Let's make the big ring for our future.」。次に、カラフルな絵の具の缶に手を突っ込んで、板を叩き、さらに、的のような何重かの円を描いていった。けっして否定的な意味ではなく、遠藤のパフォーマンスにはオリジナルな要素はない。むしろ、篠原有司男?ジャスパー・ジョーンズ?ボイス?などと、美術史の意匠が想起させられる。あるいは、最後に黄色の文字で書いた「自由」は、あまりに手垢のついた言葉に思われる。「未来」というフレーズとは対照的に、遠藤の行為からは、さまざまな「過去」の記憶が呼びさまされる。きわめつけは、壁との格闘が一段落すると、観客に手拍子を求めたかと思ったら不意に歌い出した「ひょっこりひょうたん島」。遠藤は、過去の遺物(「レディ・メイド」と言い換えてもいいだろう)を取り出しながら、それらをあらためて活性化させようとする、それも〈ノーテク〉で。芸術を芸術らしく見せるアイロニーでもジョークでもなく、とはいえそれらをちゃんとかすめ通りながら、遠藤が現出させようとするのは、すべてをご破算にした後に残る本当に大事ななにかだろう。それがなになのかを明示することは遠藤の役目ではない。ただ遠藤の身体が発する熱気によって、その本当に大事ななにかを目にしたいという気持ちが刺激される、まるで魔法の起こる瞬間を期待するように。「自由」の一文字はそうした(蛇行を経た末の)真っ直ぐな思いへ向けられているに違いない。

2011/01/21(金)(木村覚)

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