artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

ウラサキミキオ展

会期:2010/03/29~2010/04/03

ギャラリイK[東京都]

画家・ウラサキミキオの新作展。自室のある一点から見渡した光景を描き分けた前回の個展と比べると、その視線の範囲がかなり外側に押し広げられたようで、じっさい画面上には青々とした樹木の緑が目立っている。ウラサキの絵の特徴は写実的な光景の上に、それらとは直接関係しない方法で、白い影のような物体を貼りつけるデカルコマニーにあるが、その白い影もよりいっそう奔放に貼りつけられていたようだ。画面を成立させようとする求心力とそれらを破綻させかねない遠心力がせめぎあいながら辛うじて治まる、危うい均衡がウラサキの絵画の魅力である。

2010/04/01(木)(福住廉)

板倉広美 展

会期:2010/03/29~2010/04/03

信濃橋画廊[大阪府]

抽象表現主義のモーリス・ルイスを思わせる、滲みを生かした墨絵を制作する板倉だが、新作ではアクリル絵具を用いたカラーの作品にもトライしていた。色が付いたらまんまルイスじゃないの? と思いきや、意外と自分の世界をキープできているのであった。色彩を得ることで彼女の世界が今後どのように広がっていくのかに注目したい。

2010/03/29(月)(小吹隆文)

第13回岡本太郎現代芸術賞

会期:2010/02/06~2010/04/04

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

13回目を迎えた岡本太郎現代賞。昨年と比べると、全体的に突き抜けた作品が多く、一つひとつの作品をじっくり楽しめた。アルミホイルで騎馬軍団を作り出して太郎賞を受賞した三家俊彦をはじめ、黒光りする銃器を紙と鉛筆で制作した長谷川学、日常用品の表面に塗料を幾重にも塗り重ねたうえでそれらを削り取って色彩のテクスチュアを見せる辻牧子など、愚直な手わざをひたすら追究した作品が目立つ。特定の美術理論が衰退したおかげなのか、作り手の創造性がじつに素直に発揮されている印象だ。そうした自由奔放さが、プロとアマはもちろん、国籍や年齢制限も問わない、この賞の間口の広さに由来していることはまちがいない。ただその一方で、審査員の趣向や好みを狙い撃ちにしたような作品が数多く見受けられたのも事実である。応募者のなかで「傾向と対策」が画策されているとすれば、それは審査員の評価基準が時代の先端からやや遅れ、硬直化しているということにほかならない。これを放置しておけば、せっかく良質の公募展としての評価を確立してきたのに、旧態依然としたセンスで現代の最前線を標榜する公募展に成り下がらないともかぎらない。いっそ審査員を丸ごと入れ替えて刷新を図るべきではないか。

2010/03/28(日)(福住廉)

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MOTアニュアル2010「装飾」

会期:2010/02/06~2010/04/11

東京都現代美術館[東京都]

多様な「装飾」表現のあり方を通して、「装飾」の物質性のみならず、精神性の象徴や言語的、身体的な表現としての特性に注目する本展。出品作家の作品は、このテーマと直接には結びつかないもののほうが多いのだが、「装飾」という観点でそれぞれの表現にアプローチする試み自体が興味深い。床にインスタレーションされた山本基の塩の《迷宮》、薄い木材の作品全体が緻密に彫られた森淳一の彫刻、繁茂する植物のような小川敦生の石鹸の作品など、繊細でありながらダイナミックに連続や増殖のイメージを拡げる作品。時間、空間、記憶のイメージ、それらの境界に思いを巡らせる松本尚、水田寛、横内賢太郎の平面作品も美しかった。なかでも新鮮な感動を覚えたのは、塩保朋子の高さ6メートルを超える切り絵の作品。スケールの大きさの迫力はあれど白い紙をひたすら切り抜くという手法の冷静な印象のせいか、一見その空間は静謐に感じられる。しかし無数に切り抜かれた紙の隙間を透過する光が騒々しいほどの影の表情をつくり、空間を隔てるまさに紙一重のすれすれの際を浮かび上がらせて美しい。どの作品もじっくりと見るほどに境界が揺らぐ不思議に魅了される見応えの展覧会。

2010/03/27(土)(酒井千穂)

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東北芸術工科大学卒業・修了展[東京展]

会期:2010/03/26~2010/04/03

東京都美術館[東京都]

東北芸術工科大学の卒業・修了展。本校での卒業・修了展の中から選抜された学生による作品が発表された。先に国立新美術館で催された東京五美大展と比べると、全体的に平均値が高く、ひとつひとつの作品の輪郭が際立っており、楽しめた。なかでも抜群だったのが、工芸の菊池麦彦。漆黒の机の上に木箱と漆を塗り重ねた色とりどりのルアーを並べ、あわせてそのルアーを使って本物の魚を釣り上げた映像も発表した。作品の見せ方もうまいし、何よりも漆のルアーで魚が釣れるという意外性がじつにおもしろい。美的に鑑賞されるだけではなく実用的な価値をも満たすのが工芸の本領だとすれば、美しくもあり使えるルアーは工芸の王道であり、古い技を刷新し続けていくことが伝統だとすれば、菊池のルアーはまちがいなく工芸の伝統である。

2010/03/27(土)(福住廉)