2021年09月15日号
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artscapeレビュー

アジア現代美術展──「ただいま」

2009年12月01日号

会期:2009/09/05~2009/11/23

ギャラリーアートリエ[福岡県]

第4回福岡トリエンナーレと同時期に同建物内で催された展覧会。九州大学文学部の後小路雅弘教授の研究室で学ぶ学生たちが企画した。彼らに選び出されたアーティストは、同トリエンナーレの選考からもれたアジアのアーティストたちから選び出された6人と、日本人のアーティスト2人を加えた、合計8人。狭い空間とはいえ、それぞれ力のある作品が展示された。おおかたの作品に通底しているのは、日々の凡庸な日常にたいする鋭い意識。凡庸な日常風景を切り取った断片を短い映像で淡々と見せる鈴木淳は、彼のライフワークともいえる《だけなんなん/so what?》を、角田奈々は実母の生き様を写真に収めた《狭間》を、それぞれ発表した。なかでもひときわ際立っていたのが、マレーシアから参加したクリス・チョン・チャン・フイ。その映像作品《B棟》はクアラルンプール郊外の団地を一日中ワンカットで延々と撮影し続けたもの。視覚的には共同の廊下や階段を行き交う人びとが小さく見えるだけだが、聴覚的には彼らが交わす言葉や音楽、あらゆる類の生活音などが建物の内外から聞こえてくるので、そこでじつに多様な人びとが暮らしていることがリアルに伝わってくる。日中は主婦たちの世間話や子どもたちの歓声が多いが、夜になると扉を華やかに彩る電飾や廊下から打ち上げられる花火に驚かされ、恋人たちが愛の言葉を囁きあい、やがて鈴虫の音色が夜の空気にこだまする。日常に否定的に介入するのでもなく、安易に肯定するのでもなく、ただ日常そのものを即物的に記録した映像でありながら、じつに豊かな人間の営みを浮き彫りにしてみせた傑作である。

2009/11/13(福住廉)

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