artscapeレビュー

ステッチ・バイ・ステッチ 針と糸で描くわたし

2009年11月01日号

会期:2009/07/18~2009/09/27

東京都庭園美術館[東京都]

針と糸を使いこなすアーティストを集めた展覧会。秋山さやか、伊藤存、竹村京、手塚愛子、村山留里子など、8組のアーティストが作品を発表した。なかでも際立っていたのが、夜警の仕事をしながら針仕事に没頭する奥村綱雄と、千人針のように縫い玉を繰り返しつくる吉本篤史。幾度も幾度も針と糸を突き刺すことで、まるで抽象画のような画面をつくり出す奥村の作品は、その執拗な反復の痕跡と手の平に収まるような小さなサイズが、奥村自身の偏執的な私性を強く醸し出していた。また千人針には無数の他者からの呼びかけが込められているのにたいし、吉本の作品にはむしろ自分からの呼びかけと自分による応答が反響しており、その自己完結したコミュニケーションのありようが、逆に鑑賞者の興味を強く刺激していた。両者は、みずから閉じること(縫合)によって社会的に開く(開示)という表現がありうることを示していたと思う。

2009/09/27(日)(福住廉)

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