artscapeレビュー
石塚元太良『LENSMAN』
2009年09月15日号
発行所:赤々舎
発行日:2009年5月30日
石塚元太良と石川直樹はどこか似ている。精力的な旅人というポジションに立ち、旺盛な創作意欲で次々に作品を発表している。着眼点がよく、撮影の方法論を的確に設定し、プリントの仕上げや展示も悪くない。にもかかわらず、いつも「物足りなさ」が残ってしまう。ボールを蹴る所まではいいのだが、それがすっきりとしたファイン・ゴールに結びつかないのだ。
このシリーズは、もしかすると石塚の転回点になる作品かもしれないとは思う。「あとがき」にあたる文章に彼が書いているように、今回は「特別どこにも出かけないで目のまえのモノたちを、普段見慣れたモノたちを、僕は次のモチーフとして撮るのだ」という意気込みで撮影された写真が並んでいるからだ。石塚はそのアイディアを、アラスカの石油パイプラインの撮影の終着点、北極圏のデッドホースという土地で思いついたのだという。地球上で最も遠い場所まで出かけていった時に、ふとかつて撮影した晴海のスクラップ工場の眺めを思い浮かべる。そしてさらに記憶をさかのぼって、幼年時、身のまわりのモノたちに違和感を覚えて「自分をつなぎ止めるようによく自分の手のひらを眺めていた」という原体験にまで行きつくことになる。
この方向づけはまっとうであり、彼がようやく写真家としてのスタートラインをきちんと引き直そうとしているのがわかる。だが、結果的にこの写真集から見えてくるのは「物足りなさ」であり「もどかしさ」だ。被写体としてのモノ、ヒト、記号の選択の仕方、その配置、レイアウト──すべて悪くはない。が、すとんと腑に落ちない。これがいま伝えたいものだというメッセージがクリアに焦点を結ばないのだ。どうすればいいのか。もがき続けるしかないだろう。「レンズマン」の旅はまだ始まったばかりなのだから。
2009/08/05(水)(飯沢耕太郎)