artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

Chim↑Pom「にんげんていいな」

会期:2009/06/27~2009/07/25

山本現代[東京都]

Chim↑Pomの新作展。昨年のhiromiyoshiiでの個展「友情か友食いか友倒れか/BLACK OF DEATH」と同様に、Chim↑Pomにとってのホームである無人島プロダクションを離れ、アウェーである山本現代で新作2点などを発表した。ひとつは、メンバーによる宅呑みの乱痴気騒ぎを記録した映像と、その現場を食品サンプルなどで再現したインスタレーション《くるくるパーティー》。もうひとつは、メンバーの稲岡求が会期中にわたってほぼ絶食することで即身仏を目指す《making of 即身仏》。狂乱じみた宴会の残骸と、畳の上で座禅を組む稲岡くんの痩せこけた身体の対比が著しい。会期前半と二度に分けて見に行ったら、稲岡くんは当初より明らかに頬がこけ、手足も見違えるほどやせ細り、腰まわりの薄さといったら尋常ではないほどだ。本人によれば18kg落としたという。享楽的な飽食と禁欲的な飢餓の極致をこれほど明快に、かつ身体をはって、視覚化した例はほかにない。「食」をめぐるこの両極こそが、いま現在の私たちのリアルである。

2009/07/25(土)(福住廉)

美術の中のかたち──手で見る造形 藤本由紀夫 SHADOW─exhibition obscura

会期:2009/07/25~2009/11/29

兵庫県立美術館[兵庫県]

美術作品を触って鑑賞する本展。元々は視覚障害者を念頭に置いて始められた企画で、今年で20年の歴史を持つ。近年は現役作家と館蔵品のジョイントが売りになっているが、今回はサウンド・アーティストの藤本由紀夫が登場。自作のほか、ロダンとブールデルのブロンズ像、高松次郎の絵画、ルドン他の版画作品を組み合わせて展覧会を構成した。絵画や版画は触ることができず、本展本来の意図からずれているのだが、藤本の狙いは障害者と健常者の区別を取っ払って、「人が美術作品を理解するとはどういうことか」を根源的に問いかけることにあった。敢えて薄暗い部屋に作品を置くことで、ホワイトキューブ空間では絶対に得られない作品との新たな接触を演出したのだ。本展の歴史のなかでは明らかに異端だが、美術館に通い慣れたディープなファンほど考えさせられる企画である。

2009/07/25(土)(小吹隆文)

寺島みどり展──見えていた風景

会期:2009.06.21~2009.07.26

奈義町現代美術館ギャラリー[岡山県]

制作の方向性が大きく変わった印象だった最近作を含め、過去からの作品を総括して展示した寺島みどりの個展。記憶の層のように幾重にも塗り重ねられ、描き込まれた色面は、時には息苦しくなるほど圧倒的な雰囲気をもち、ときにはどこまでも穏やかな静寂を感じさせる。そこはかとなく、というと根拠も説得力もないようだが、得体のしれない強烈な力が画面から感じられる寺島の作品にいつも気持ちが揺さぶられる。そのときどきによって「見える」風景(やその印象)は少しずつ異なるのだけれど、まるで霧が晴れるときに風景が一気に広がってくるような迫力はどの作品にも共通している。こんなにたくさんの点数を一度に見たのも初めてだったが、作品制作の変遷もうかがえる展示のバランスもよく、見応えのある内容で、高揚感もなかなか退かなかった。奈義町現代美術館は遠いけれど、見ることができて本当によかった!

2009/07/25(土)(酒井千穂)

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鈴木涼子「Recent Works ANIKORA-Kawaii」

会期:2009/07/07~2009/07/31

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

「ジェンダーをテーマに、人間の欲望や社会の歪みに焦点をあてた作品」を制作してきた鈴木涼子。「ANIKORA」のシリーズは、アニメ・キャラのフィギュア人形のボディに、自分自身の顔を画像合成で繋ぎ合わせるという意表をついた発想を展開する。フィギュアの身体パーツは若い男性の性的な欲望の投影であり、畸形的に巨大化した胸とお尻、極端に細い腰と長い脚で作られている。そのエロティックな媚態で、あくまでも受動的なポーズをとる人形に、典型的な日本人顔の鈴木の頭部を接続することで、どうにも身もふたもないズレが生じてくる。そのあたりの批評的でシニカルな笑いの取り方が、このシリーズの見所といえるだろう。
ところが今回の「ANIKORA-Kawaii」では、顔にもかなりの修整が施されていることで、他のパーツとの繋がり具合にあまり違和感がなくなってしまっていた。これ以上滑らかに接続してしまうと、ミイラ取りがミイラになって、ただの「Kawaii」作品としてしか見られないのではないかと心配になってしまうほどだ。プリントだけでなく、液晶ビュアーで見せるという新しい試みの作品も2点展示されていた。ウィンクしたり、画像の一部が微妙に揺らいだりする「動画」的な要素と、静止画像との組み合わせは、さらに大きく展開していく可能性がありそうだ。

2009/07/25(土)(飯沢耕太郎)

小泉明郎

会期:2009/07/25~2009/11/08

森美術館 ギャラリー1[東京都]

ヴィデオ・アーティストの小泉明郎の個展。新作の《僕の声はきっとあなたに届いている》(2009)と、代表作の《ヒューマン・オペラXXX》(2007)を発表した。前者は息子が母親に電話をかけ、箱根の温泉に誘うシーンを映し出した映像作品。新宿の雑踏のなか、ひとり携帯で母に語りかける口調は気恥ずかしさと誠意が渾然一体となっており、その点で彼の「本音」が表われているように見える。だがその後、彼の姿と声はそのままに、母の声の代わりに企業の受付窓口やお客様相談センターの係員の声が挿入されると、事態は一転する。事務的に応答する係員たちの声と、母への親愛を吐露する彼の声は決して噛み合うことがない。誠実な「本音」を体現していたはずの彼の声は係員たちの機械的な発話をおちょくる悪戯じみた声に聞こえはじめる反面、むしろマニュアルという「建前」で武装しているはずの係員たちの声のほうが、彼の声になんとか誠実に対応しようとしている点において「本音」であるかのように聞こえる。一見すると、言葉のディスコミニュケーションをネタにしたお笑いビデオに見られがちだが、じつは言葉の「本音」と「建前」を錯綜させることによって、言葉の向こう側を切り開く傑作である。

2009/07/24(金)(福住廉)