artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

山下耕平 展─ケルン・現在位置─

会期:2009/07/16~2009/08/22

INAXギャラリー2[東京都]

アウトドアとアートを融合させるという山下耕平の個展。登山をモチーフとした平面作品や立体作品を発表した。黒い背景にカラフルな図像が置かれた絵はひと目で山登りの場面が描かれていることがわかるが、よく見ると、それらは色とりどりの丸い円で構成されており、さらによく見ると、大半が既存のイメージを寄せ集めたコラージュであることに気づかされる。巨視的に見れば、セル状に集合した円は、黒を背景にしているせいか、宇宙論的なイメージを強く感じさせるが、微視的に見れば、既成の図像が醸し出す世俗的なイメージが喚起される。神話的に語られるか、もしくはレジャーとして楽しまれる登山のステレオタイプにたいして、両者がせめぎあう現場として山を描いているのだろう。

2009/07/29(水)(福住廉)

新世代への視点2009──画廊からの発言

会期:2009/07/27~2009/08/08

ギャラリーなつか他[東京都]

東京の銀座・京橋近辺の画廊でつくられた「東京現代美術画廊会議」が企画する連続展覧会の10回目。12の画廊によって推薦されたアーティストの個展をそれぞれの画廊で同時期に開催した。加藤崇(ギャラリイK)は、顔面をテープでぐるぐるに巻いた写真や、コップの水を口に出し入れするたびに水が変色していく様子を映した映像を発表して、着実に新たな展開を見せていた。また、和紙の上に描かれた動植物にビーズをあしらうことで蟻の群れを表わした柳井信乃(ギャラリーQ)や、方解末による結晶のような模様を内部に仕込んだ透明のアクリル板を鋭角上に組み上げた市川裕司(コバヤシ画廊)などが際立っていた。

2009/07/29(水)(福住廉)

ゴーギャン展

会期:2009/07/03~2009/09/23

東京国立近代美術館[東京都]

ポール・ゴーギャンの展覧会。油彩をはじめ版画や彫刻など、およそ50点が展示されたが、なかでも注目されたのが、本邦初公開となる《我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか》(1897-1898)。ワイド画面にタヒチの風景と図像を描いた絵はたしかに見応えがあったけれど、気になったのはその脇に絵を図解する解説ボードが設置されていたこと。図像学よろしく、さまざまなイメージを懇切丁寧に解説することを、専門家による親切なサービスととらえるか、あるいは大きなお世話ととるべきかは客の自由だが、こうした善意の取り計らいが期せずして日本人の「定説文化」(針生一郎)を再生産しているように思えてならない。定説を拝聴して、確認して、納得して、安心して帰っていくプロセスからいかにして脱却することができるのか。近代をいまだに内面化しえないまま、いびつなポストモダン社会を生きる私たちにとっての課題は、そこにある。おそらくそのヒントは、ごくごくありていにいってしまえば、学芸の研究と鑑賞教育を有機的に統合した展覧会のありようにこそ、求められるのではないだろうか。

2009/07/29(水)(福住廉)

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画家の眼差し、レンズの眼 近代日本の写真と絵画

会期:2009/06/27~2009/08/23

神奈川県立近代美術館/葉山館[神奈川県]

19世紀以来の絵画と写真の関係を歴史的に検証する展覧会。絵画は写真の迫真性を貪欲に取り込んできたが、写真も絵画的な写真「ピクトリアリズム」に取り組んできた。その相互関係を、写真100点のほか、油彩画や日本画、版画、水彩、素描など合計215点によって明らかにした。興味深かったのは、絵画の「元ネタ」となった写真をあわせて展示していたこと。たとえば高橋由一の《山形市街図》(1881~1882)は、それと並置された写真を見ると、写実的な再現性にもとづきながらも、随所で由一の構成力が発揮されているのが一目瞭然でおもしろい。元の写真には見られなかった人影が、由一の油絵では通りに描き加えられ、遠景には煙突から立ち昇る煙まで描かれている。セピア色の写真では空の色合いは推し量るほかないが、由一は薄雲を効果的に導入することによって、いかにも物語的な大空をつくりあげている。作家の独創的な「眼差し」が、かなりの部分で「レンズの眼」に依存していることを実証する、画期的な展覧会である。

2009/07/28(火)(福住廉)

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マイ・アートフル・ライフ─描くことのよろこび─

会期:2009/07/17~2009/08/30

ギャルリ・オーブ[京都府]

正規の美術教育を受けることなく、老齢になってから筆を執った3人の作家、搭本シスコ、丸木スマ、石山朔を紹介。搭本と丸木は以前から有名だし、私も何度か作品を見たことがあるが、石山の作品を生で見たのは今回が初めてだった。いわゆるアール・ブリュットには具象的な作風が多いが、石山の作品は完全に抽象画。カラフルなストライプの上に渦を巻くタッチが重なった鮮烈なもので、500号の大作が多数ということもあって鮮烈な印象を受けた。抽象絵画でありながら、思念的というよりは描く喜びが前面に現われた作品があるなんて。その発見が嬉しい。

2009/07/28(火)(小吹隆文)