artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

岩村伸一 展

会期:2009.07.21~2009.08.02

アートスペース虹[京都府]

壁いっぱいの画面に、土、蜜蝋、テレピンで描かれた格子。色もそれぞれの線ごとに違うが、よく見ると土や泥の粒の塊がところどころに確認でき、一本の線の上でも微妙な変化とさまざまな表情を見せている。作家は制作を絵を描くというのではなく「作業」と呼ぶのだという。その「作業」光景が頭に浮かんでくる。いつのまにか上下左右に線が伸びていくような格子が、何の変化もないかのように過ぎていく穏やかな日常と重なるような気がした。

2009/07/24(金)(酒井千穂)

鴻池朋子 展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人

会期:2009/07/18~2009/09/27

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

鴻池朋子の大規模な展覧会。これまでの創作活動を振り返る回顧展というより、過去に発表してきた作品と新作を掛け合わせて新たな物語を紡ぎ出した。それは地球の中心に向かって降り立ってゆく地底探検の神話。会場の入り口を地表面として、「地殻」や「外部マントル」などと名づけられた展示室を進むにつれて徐々に深度を深め、最終的にマイナス6,377kmの「地球の中心」に到達するという仕掛けだ。鴻池のファンタジックな作品は、ともすると私的な心象風景の現われとして理解されがちだったが、ここでは「心底探検」という小さな物語が「地底探検」という大きな物語に組み込まれているため、観客はおのずと自分の心の内側と身体の外側に同時に想像力を発揮しながら世界の根源に思いを馳せることになる。個々の作品とそれらを包括する文脈が有機的に結びつき、見終わったあと心地よい疲労感を味わえるほど、すばらしい展覧会である。

2009/07/22(水)(福住廉)

artscapeレビュー /relation/e_00005201.json s 1208542

白井美穂 展/エリカ・タン展

会期:2009.06.26~2009.08.02

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

イギリスのサンダーランド大学とBankARTとのアーティスト・イン・レジデンス交流事業。昨夏、BankARTから白井美穂をサンダーランド大学に送り、その逆にイギリスからエリカ・タンがやってきて、それぞれ2カ月間滞在・制作した。その日本での発表展。なぜこの時期に両国の交流事業なのかといえば、昨年が日英修好通商条約調印150周年だったから。したがってレジデンスの制作テーマも、日英関係や通商条約に関してという枠組みがあったようだ。白井は150年前に日本の使節団が初めてイギリスを訪れたときの驚愕と混乱を、『不思議の国のアリス』の「気狂いティーパーティー」になぞらえた映画『永遠の午後』を制作。タンは、さまざまな人に描いてもらった富士山の絵を素材に作品をつくった。まあテーマなんぞ、あってなきがごとしくらいが一番だ。

2009/07/19(日)(村田真)

INTERVALLO 幕間 展

会期:2009.06.26~2009.08.02

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

小池一子が選んだコロンバ・レッディ、クリスティーネ・ビルクレ、和井内京子の3人のファッションデザイン展。ついこないだまでここに並んでいた原口典之の重厚な作品群が、奇跡的にこの空間とマッチしていたのに比べ、こんどのファッション展は空間に負けてしまうのではないかと心配したが、どうやら杞憂に終わったようだ。しなやかな「女の手仕事」は、硬質な原口作品とはまったく違った作法で空間に溶け込んでいたからだ。

2009/07/19(日)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00005263.json s 1207425

荒木経惟「POLART 6000」

会期:2009/07/17~2009/08/20

RAT HOLE GALLERY[東京都]

まずはその量に圧倒される。タイトルが示すように、6,000枚のポラロイド写真(実際には少し少ないようだが)が壁にずらっと並ぶ様は壮観としかいいようがない。特に27×97=2619枚(!)が全面にびっしりと貼られた一番大きな壁は、思わず笑ってしまうようなとんでもない迫力である。派手好み、お祭り好きの荒木経惟の面目躍如というべき展示だ。
その祝祭性は写っている被写体にまで及んでいる。ポラロイドでヌードといえば、普通はやや秘密めいた淫微なイメージを想い描くだろう。ポラロイドは現像や焼き付けを業者に出す必要がないので、「危ない」写真を撮るのによく使われてきた。それに加えてフィルムの表面の、つるつるした人工皮膚を思わせる質感そのものもエロティックだ。だが荒木の「POLART」に登場してくるヌードの女性たちは、ひたすら晴れやかでお目出度い。裸体だけでなく、花や食事のようなオブジェも、日々撮り続けられているスナップも、膨大に増殖していくイメージ群は、あっけらかんとした開放的な生命力を発しつつ、大声で呼び交しているように見える。
そのうちの幾つかは、20~100枚くらいの単位でグリッド状に構成されて展示してある。その組み合わせ方が、いかにも荒木らしくウィットと奇想に飛んでいる。それぞれの女性モデルごとに一まとめにした組もあり、「明太子」「パンと牡蠣」のような男性器、女性器への見立ての妙を発揮したシリーズ、ポラロイド・フィルムの表面に直接絵具で書き込んだ「花画」「闇夜2射精」など、抽象画のような作品もある。ポラロイドというシステムの可能性を、ほぼ極限まで、出し惜しみせずに開陳するやり方も、荒木ならではというべきだろう。表現者としての底力に脱帽。まだまだやんちゃな創作意欲は衰えを見せていないようだ。

2009/07/19(日)(飯沢耕太郎)