artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

《ふるさと井上靖文学館》《ベルナール・ビュフェ美術館》

[静岡県]

続いて、ふるさと井上靖文学館へ。視覚的な美術と違い、地味な資料になってしまう文学館はどうしても「見せる」のが難しい。ここもそうだった。この建物と向かいのベルナール・ビュフェ美術館は1973年のオープンで、いずれも菊竹清訓によるもの。2つは対照的な変わったデザインである。ビュフェ美術館は、作家や批評家の言葉を添えながえら、彼の生涯をたどる展示だ。細くとんがった人物造形のキャラ。無数の線で激しくひっかいた画風。1950年代の状況には合っていたと思うが、若くして成功した後、あまり作家として展開や成長がないように感じたので、ピンとこない。ビュフェ美術館で、3月15日スタートの「frame and refrain」展を設営中の杉戸洋に声がけし、絵の配列を決める途中を見せてもらう。あいちトリエンナーレの市美と連なる、さまざまな家型イメージの作品で楽しい。この前のケンジタキギャラリーでも空間インスタレーションだった。

写真:上=《ふるさと井上靖文学館》 下=《ベルナール・ビュフェ美術館》

2015/03/13(金)(五十嵐太郎)

菅木志雄 展

会期:2014/11/02~2015/03/24

ヴァンジ彫刻庭園美術館[静岡県]

静岡のヴァンジ彫刻庭園美術館へ。もの派の菅木志雄展を見る。ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館や広島市現代美術館など、過去の再制作をいろいろ含むが、館の内外の空間を活用し、この場所のためにつくられたかと感じるくらい、うまく作品化している。ものの幾何学的なルールは、建築のデザイン手法にも通じ、興味深い。

2015/03/13(金)(五十嵐太郎)

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百々武「草葉の陰で眠る獣」

会期:2015/03/11~2015/03/24

銀座ニコンサロン[東京都]

百々武は1977年大阪生まれ。1999年にビジュアルアーツ専門学校・大阪を卒業後、しばらく東京で暮らしていたが、奈良の実家に帰ってから、2009年から奈良県南部の山村を撮影しはじめた。百々の前作『島の力』(ブレーンセンター、2009年)は、日本全国、北から南までの島に足を運んで撮影したモノクロームの連作だったが、今回の「草葉の陰で眠る獣」は、カラーで撮影している。そのためもあるのだろうか。開放的な気分がシリーズ全体にあらわれていて、どこか明るい雰囲気に包み込まれていた。
冒頭の5点の写真は、菜の花畑にやってきた蜜蜂を撮影しているのだが、その導入部がとてもよかった。蜜蜂に導かれるように村の空間に入り込み、そこに住む人たちと出会い、さまざまな行事に参加し、猪狩りなども経験する。彼のカメラの前に姿をあらわすさまざまな風物を、昆虫や小動物などを含めて、気負うことなく、すっと画面におさめていく、その手つきの柔らかさ、しなやかさに、彼のカメラワークの特質があらわれているように感じた。結果的に、古い歴史を背負った奈良の風土が四季を通じて細やかに浮かび上がってくる、いいドキュメンタリーになったと思う。父親の写真家、百々俊二の重厚な力業とも、兄の木村伊兵衛写真賞受賞作家、百々新の軽やかなフットワークともひと味違った、百々武の写真のあり方が、はっきりと見えてきつつあるのではないだろうか。
展覧会にあわせて、赤々舎から同名のハードカバー写真集が刊行された。なお、本展は4月2日~8日に大阪ニコンサロンに巡回する。

2015/03/11(水)(飯沢耕太郎)

ミシャ・デリダー ジャパンスーツケースII

会期:2015/03/07~2015/03/28

ギャラリーギャラリー[京都府]

フランスのモード造形作家ミシャ・デリダー。彼女は服飾と立体を兼ねるような造形作品と、それをまとったパフォーマーによるダンスを作品としている。また近年は、スーツケースに作品を詰めて海外を訪れるスーツケース・プロジェクトも展開している。彼女は2013年に日本を訪れ、京都の丹後ちりめんや西脇の播州織など、日本各地の布地を入手した。本展の出品作はそれらを用いたものだ。大量のぬいぐるみと衣服が合体した作品、いくつもの袖を持ち、前後左右を問わず着用できる作品、無数の半球形の突起で覆われた作品など、彼女の作品はどれもユニークだ。動く姿を見られなかったのが残念でならない。リモコンで稼働する台座を作って衣装を着せれば、パフォーマーが不在でも動く姿を見ることができる。いや、無人劇のような新表現へとつながるかもしれない。次に来日する時に、彼女の表現はどのように進化しているだろう。その日がいまから楽しみだ。

2015/03/10(火)(小吹隆文)

贋造と模倣の文化史──大ニセモノ博覧会

会期:2015/03/10~2015/05/06

国立歴史民俗博物館[千葉県]

美術館や博物館にとって「ニセモノ」は大きなテーマだが、ホンモノとニセモノは思ったほど白黒つけられるものではなく、両者のあいだにはグレーゾーンが広がってるらしい。だいたいニセモノというのは美術館にとっては最大の敵だが、博物館にとっては強力な味方にもなる。実際、歴博の展示物の約40パーセントはニセモノだという。この場合のニセモノとはレプリカ(模型)のことであり、世界にひとつしかない化石などは広く教育・研究用に役立たせるためレプリカが重宝される。反対に、美術館の敵であるニセモノはおもにフェイク(贋作)を指し、美術館にあったら大問題となる。ほかにもニセモノにはイミテーション(模倣)、コピー(複製)などがあり、必ずしもネガティヴなものばかりではないようだ。同展は「暮らしのなかのフェイク」「コピー・イミテーションの世界」「博物館の『レプリカ』と『コピー』」など5部に分かれ、20-30年前の安南陶器ニセモノ事件をはじめ、「伝雪舟」「伝狩野探幽」のように真作に疑いがある書画、武田信玄や徳川家康の偽文書、浮世絵の海賊版、大学教授もだまされた「ヴュルツブルクの嘘石」と呼ばれるニセモノの化石(のレプリカ)、人魚やオニのミイラ、三葉虫や始祖鳥の化石のレプリカまで幅広く集めている。人魚のミイラはもちろんニセモノだが、明治のころまでにつくられた古いものは民俗学的な価値があり、その意味ではホンモノといえなくはない。とても楽しめる展覧会だが、多くの美術館がだまされて購入し、持て余してるはずの名画の贋作も出ていたらさらに幅が広がっただろう。

2015/03/09(月)(村田真)

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