artscapeレビュー
百々武「草葉の陰で眠る獣」
2015年04月15日号
会期:2015/03/11~2015/03/24
銀座ニコンサロン[東京都]
百々武は1977年大阪生まれ。1999年にビジュアルアーツ専門学校・大阪を卒業後、しばらく東京で暮らしていたが、奈良の実家に帰ってから、2009年から奈良県南部の山村を撮影しはじめた。百々の前作『島の力』(ブレーンセンター、2009年)は、日本全国、北から南までの島に足を運んで撮影したモノクロームの連作だったが、今回の「草葉の陰で眠る獣」は、カラーで撮影している。そのためもあるのだろうか。開放的な気分がシリーズ全体にあらわれていて、どこか明るい雰囲気に包み込まれていた。
冒頭の5点の写真は、菜の花畑にやってきた蜜蜂を撮影しているのだが、その導入部がとてもよかった。蜜蜂に導かれるように村の空間に入り込み、そこに住む人たちと出会い、さまざまな行事に参加し、猪狩りなども経験する。彼のカメラの前に姿をあらわすさまざまな風物を、昆虫や小動物などを含めて、気負うことなく、すっと画面におさめていく、その手つきの柔らかさ、しなやかさに、彼のカメラワークの特質があらわれているように感じた。結果的に、古い歴史を背負った奈良の風土が四季を通じて細やかに浮かび上がってくる、いいドキュメンタリーになったと思う。父親の写真家、百々俊二の重厚な力業とも、兄の木村伊兵衛写真賞受賞作家、百々新の軽やかなフットワークともひと味違った、百々武の写真のあり方が、はっきりと見えてきつつあるのではないだろうか。
展覧会にあわせて、赤々舎から同名のハードカバー写真集が刊行された。なお、本展は4月2日~8日に大阪ニコンサロンに巡回する。
2015/03/11(水)(飯沢耕太郎)