2019年11月15日号
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artscapeレビュー

広川泰士「BABEL Ordinary Landscapes」

2015年03月15日号

会期:2015/02/13~2015/03/24

キヤノンギャラリーS[東京都]

広川泰士には『STILL CRAZY - Nuclear power plants as seen in Japanese landscapes.』(光琳社出版、1994年)という作品集がある。日本各地の海岸線に沿って建造された53基の原子力発電所を、大判カメラで撮影した写真を集成したものだ。いうまでもなく2011年3月11日の東日本大震災によって、福島第一原子力発電所が大事故を起こしたことで、原発が「狂気」の産物であるという広川が抱いていた予感は現実のものとなった。
東京・品川のキヤノンギャラリーSで展示された彼の新作「BABEL」もまた、日本各地の風景に対して彼が育て上げていった違和感、不安感を形にしたものといえる。1998年から15年以上にわたって、8×10インチの大判カメラで撮り続けるうちに、大地を引き裂き、捏ね上げ、旧約聖書のバベルの塔を思わせる醜悪な建造物を作り上げていく人間の営みは、さらにエスカレートしていったように見える。それにともなって、自然のしっぺ返しといえるような地震や津波も起こり、その後には黙示録的といいたくなるような無惨な光景が広がることになる。『STILL CRAZY』でもそうだったのだが、広川はそれらの眺めを声高に、情感を込めて描き出すのではなく、むしろ素っ気なく、投げ出すように提示している。だがそのことによって、写真を見る者はより苦く、重い塊を呑み込むような思いに沈み込むのではないだろうか。掛け値なしに、ここにあるのが、いまの日本の「普通の風景」(Normal Landscapes)なのだ。
今回の展示では、キヤノンの大判デジタルプリンターの威力を見せつけられた。最大2.60×3.25メートルという大きさのカラープリントを、継ぎ目なしで出力することで、風景のディテールが異様な物質感をともなって立ち上がってくる。10年前には考えられない展示が、ごく当たり前に実現できるようになってきている。

2015/02/16(月)(飯沢耕太郎)

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