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artscapeレビュー

永瀬沙世「FOLLOW UP 追跡」

2014年12月15日号

会期:2014/11/01~2014/11/12

AL[東京都]

永瀬沙世は1978年、兵庫県生まれの写真家。主にファッション雑誌を活動の場にしているが、時折、何とも不思議なテイストの写真展を開催して楽しませてくれる。
今回の「FOLLOW UP 追跡」展には「J002E3」という副題がついているが、これはアメリカを拠点とするカナダ人のアマチュア天文家が発見した、月と地球の間で奇妙な動きをする天体のことだ。後にその表面が白い酸化チタンで塗られていることから、1969年に打ち上げられた、アポロ12号のロケットの機体の一部ではないかといわれている。永瀬はその記事のことを友人から教えられたのだが、メールを読んですぐに忘れてしまっていた。その数ヶ月後、「お風呂からあがって、髪がぬれたままティファールのケトルでお湯を沸かしていたとき、ばらばらの短いシーンが卵形の弧を描きながら頭を駆け巡った」のだという。
実際に展示されているのは、どこか夢の中のようなぼんやりしたトーンで撮影された、いくつかの断片的な画像で、直接的に「J002E3」と関係があるようには見えない。UFOやロケットめいた物体が写っている写真もあるが、特にストーリーを追ったものではないだろう。だが、全体的に何かを「追跡」しているような、妙にワクワクした謎めいた雰囲気があって、日常が非日常にワープしていく感覚が、なかなかうまく定着されている。さらっとでき上がった小品には違いないが、むしろふとした思いつきを形にしていく軽やかな手つきに、この写真家の持ち味があるのではないだろうか。同時に刊行された、タブロイド判の新聞のような造本の写真集(500部限定)も気がきいている。

2014/11/07(金)(飯沢耕太郎)

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