artscapeレビュー

ERIC『EYE OF THE VORTEX』

2014年10月15日号

発行所:赤々舎

発行日:2014年9月8日

東京・銀座のガーディアン・ガーデンで開催されたERICの個展「Eye of the Vortex/ 渦の眼」(2014年9月8日~25日)を見逃したのは残念だった。秋は展覧会が立て込んでいるので、ついうっかり忘れてしまうことがよくある。
だが、同時期に発売された同名の写真集を見ることができた。展示で確認することはできなかったが、明らかにERICの撮影のスタイルがかわりつつある。これまで彼が日本や中国で撮影してきた路上スナップでは、6x7判のカメラのシャープな描写力を生かして、近距離から獲物に飛びつくようにシャッターを切っていた。時には白昼ストロボを発光させることもあり、鮮やかなコントラストの画面は、群衆の中から浮き出してくる“個”としての人物たちの、むき出しの生命力を捉えきっていた。だが、今回インドを舞台に撮影された『EYE OF THE VORTEX』のシリーズでは、カメラのフォーマットが35ミリサイズに変わったこともあり、より融通無碍なカメラアングルをとるようになった。被写体との距離感も一定ではなく、かなり遠くからシャッターを切っている写真もある。正面向きの人物だけではなく、横向き、後ろ向き、あるいは人物が写っていないカットまである。
このような変化は、やはりインドという「めくるめく混沌」の地を撮影場所に選んだことによるのだろう。また、香港から日本に来て写真家として活動し始めてから10年以上が過ぎ、彼の眼差しがさまざまなシチュエーションに対応できる柔軟性を備え始めているということでもある。さらに、路上スナップの方法論を研ぎ澄ませていけば、写真による「群衆論」の新たな可能性が開けてくるのではないだろうか。

2014/09/28(日)(飯沢耕太郎)

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