artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:MuDA × Humanelectro「SPIRAL」

会期:2014/07/19~2014/07/20

山本能楽堂[大阪府]

京都を拠点に各地で活動を行っているパフォーマンスグループ「MuDA」と、ベルリン在住のヒューマンビートボクサーでエレクトロニックミュージシャン「Humanelectro = Ryo Fujimoto」がコラボレーション。国の重要有形文化財に指定されている大阪の山本能楽堂で舞台公演を行う。「MuDA」のダンサーたちのシンプルで激しい動作とダンスが、ステージに設置された超音波センサーによって電子情報に変換され、音、照明、映像へと再出力される、というステージ。山本能楽堂は、今春、舞台にLED照明を導入したことで注目を集めた舞台でもあるだけに、音楽、映像、照明、美術などの演出にも期待が募る。この公演を皮切りに来年以降はヨーロッパやアジア各地でワールドツアーを行う計画もある「MuDA」。さらなる活躍のスタートとなる今回のパフォーマンスはぜひ見ておきたい。

2014/07/11(金)(酒井千穂)

渡辺篤 ヨセナベ展

会期:2014/06/28~2014/07/19

Art Lab AKIBA[東京都]

いま、グラフィティのメッカは渋谷でも新宿でもなく、浅草橋である。とりわけ総武線の高架下には、質的にも量的にも、すぐれたタギングが多い。もちろん、それらは法的には違法行為であり、すべてをアートとして評価することはできないが、だとしても私たちの視線を鍛え上げる魅力的な触媒であることに違いはない。
その浅草橋と秋葉原のあいだにある会場で美術家の渡辺篤の個展が催された。今回発表されたのは、そのグラフィティをはじめ、宗教団体、ホームレス、右翼の街宣車などを主題とした、おびただしい作品群。卒制として発表された池田大作の巨大な肖像画から近作まで大量に展示されたから、ほとんど回顧展のような展観である。
それらの主題は、確かに私たちの社会的現実に即している。けれども同時に、私たちの多くが、それらを正視することを避けがちでもある。まさしくグラフィティがそうであるように、私たちは見ているようで見ていない。ホームレスのブルーシートハウスも、右翼の街宣車も、視界には入っているが、決して焦点を合わせようとはしない。渡辺の視線は、そのような社会の隙間に埋もれがちな対象を、じつに鮮やかに切り出してみせるのだ。
それは一方で批評的な身ぶりとも言えるが、他方で偽悪的ないしは露悪的な振る舞いとも言える。溜め込んだ鼻くそを固めた金の延べ棒や、枯山水を主題にしながらも庭石をブルーシートで覆った屏風絵などは、ある種の批評性を求める人びとにとっては痛快な作品だが、ある種の美意識をもった方々には到底受け入れられない代物だろう。その微妙なラインを渡辺は巧みに突いている。
とはいえ、渡辺の真骨頂は必ずしもそのような悪意のある批評性にとどまらない。それは、むしろ渡辺の視線が、グラフィティであれホームレスのブルーシートテントであれ右翼の街宣車であれ、そして現代アートであれ、すべてを等しく「表現」として見ている点にある。行政によって壁に貼付された落書き禁止の通告書をていねいに写生し、現物の横に一時的に掲示したうえで、額縁に収めて会場で発表した作品は、シミュレーションには違いないが、そうすることで通告書にひそむ「表現」を導き出したとも言える。無味乾燥で抽象化された通告書を見ても、それがどこかの誰かによってつくられた表現であるとは思わない。けれども、すぐれたグラフィティを目の当たりしたとき、その作者の存在に思いを馳せるように、渡辺は通告書ですら紛れもない表現であることを、その精巧なシミュレーションによって浮き彫りにしたのである。

2014/07/10(木)(福住廉)

神田開主「地図を歩く」

会期:2014/07/02~2014/07/15

銀座ニコンサロン[東京都]

ハッセルブラッドSWCで撮影された真面目な風景写真が並ぶ。神田開主(あきかみ)は2011年に日本写真芸術専門学校研究科を卒業した、まだ若い写真家だが、既に揺るぎない技術と、対象物を細やかに観察できる鮮鋭な視力を備えている。被写体になっているのは、北関東各地(群馬県、埼玉県、千葉県)の「場所と場所とを繋ぐ境界のような、そんな光景」である。その指標として、樹木、道路、池、谷などが選ばれており、そこからは何かが通り過ぎていった後のような、微妙な気配が立ち上がってくる。
ただし、その画面構成やモノクロームプリントの完成度の高さは諸刃の刃であり、ともすれば丁寧に整った写真を作り上げて満足しているように見えなくもない。いま、神田に求められているのは、この粘り強い「フィールドワーク」から何が見えてくるのかを、もっと具体的に問いつめていくことだろう。この仕事は民俗学的なアプローチにも通じそうだし、北関東の植生や地勢を、写真を通じて確認する方向に進むこともできる。埼玉県に生まれ、群馬県で育った彼自身の「記憶の光景」の再確認という側面もありそうだ。彼がめざす「地図」はいったいどんな目的で使用されるべきものなのか、今後はそのあたりをもっとしっかりと提示していってほしい。
なお、写真展にあわせて、冬青社から同名の写真集が刊行されている。端正なレイアウト(デザインは石山さつき)、堅牢な造本のハードカバー写真集である。

2014/07/09(水)(飯沢耕太郎)

葛西優人「Sail to the Moon」

会期:2014/06/23~2014/07/10

ガーディアン・ガーデン[東京都]

2009年から開始されたガーディアン・ガーデンの「1_WALL」展(リクルート主催)も回を重ねて、既に9人のグランプリ受賞者を輩出した。今回開催されたのは、その9回目の受賞者、葛西優人の個展である(審査員は鷹野隆大、土田ヒロミ、姫野希美、増田玲、町口寛)。
男子二人によって生み出されていく性の領域を、どこか思わせぶりな写真の連なりとして提示するセンスは悪くない。大小の写真を壁面に並べていくスタイルも手慣れた感じがする。だが、どこか既視感を覚えてしまう。これはちょっと困ったことで、葛西の写真に取り組む真摯な姿勢は好感が持てるし、作品世界の構築の方向性も間違っていないにもかかわらず、着地点がどうもうまく見えてこないのだ。
顔がほとんど見えず、クローズアップが多く、断片的に切り取られた不分明な画像が並ぶ写真の構成・展示のあり方そのものを、再考する必要があるのかもしれない。別にわかりやすい写真にしなくてもいいのだが、被写体をもう少しストレートに見据えて、丁寧に撮影してもいいのではないだろうか。鷹野隆大が「彼は不器用なタイプの人間である」というコメントを寄せているが、僕にはそう思えない。少なくとも写真展の構成に関しては、器用にまとめてしまったように見えてしまう。「不器用」を最後まで貫き通してほしいものだ。

2014/07/09(水)(飯沢耕太郎)

北尾博史 展 森の部品 古書の森の木の下で

会期:2014/07/06~2014/07/21

三密堂書店[京都府]

詩的な鉄の彫刻作品で知られる北尾博史が、古書店とコラボレートした展覧会。昨年に続く2度目の開催だ。彫刻作品の造形は書籍とリンクしたものが多く、本好きであればあるほどその関係性を楽しむことができる。また、展示された書籍を読むこともできるので、ついつい滞留時間が延びてしまった人もいるだろう。美術館でも画廊でも大型書店でもなく、小さな古書店だからこそつくり上げることができたこの豊かな空間。できれば来年以降も続けてほしいものだ。なお、本展のメイン会場は書店2階の多目的空間だったが、1階の店内でも展示が行なわれていたことを付記しておく。

2014/07/09(水)(小吹隆文)