artscapeレビュー

神田開主「地図を歩く」

2014年08月15日号

会期:2014/07/02~2014/07/15

銀座ニコンサロン[東京都]

ハッセルブラッドSWCで撮影された真面目な風景写真が並ぶ。神田開主(あきかみ)は2011年に日本写真芸術専門学校研究科を卒業した、まだ若い写真家だが、既に揺るぎない技術と、対象物を細やかに観察できる鮮鋭な視力を備えている。被写体になっているのは、北関東各地(群馬県、埼玉県、千葉県)の「場所と場所とを繋ぐ境界のような、そんな光景」である。その指標として、樹木、道路、池、谷などが選ばれており、そこからは何かが通り過ぎていった後のような、微妙な気配が立ち上がってくる。
ただし、その画面構成やモノクロームプリントの完成度の高さは諸刃の刃であり、ともすれば丁寧に整った写真を作り上げて満足しているように見えなくもない。いま、神田に求められているのは、この粘り強い「フィールドワーク」から何が見えてくるのかを、もっと具体的に問いつめていくことだろう。この仕事は民俗学的なアプローチにも通じそうだし、北関東の植生や地勢を、写真を通じて確認する方向に進むこともできる。埼玉県に生まれ、群馬県で育った彼自身の「記憶の光景」の再確認という側面もありそうだ。彼がめざす「地図」はいったいどんな目的で使用されるべきものなのか、今後はそのあたりをもっとしっかりと提示していってほしい。
なお、写真展にあわせて、冬青社から同名の写真集が刊行されている。端正なレイアウト(デザインは石山さつき)、堅牢な造本のハードカバー写真集である。

2014/07/09(水)(飯沢耕太郎)

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