artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
佐藤一郎 退任記念展
会期:2014/01/06~2014/01/19
東京藝術大学大学美術館3階[東京都]
佐藤一郎の名前はぼくが美大生だった70年代から聞いていた。クラスメートに仙台出身者が3、4人いて、彼らが畏敬すべき先輩として、また新進画家としてウワサしてたのを耳にしていたからだ。カタログで調べてみると、当時佐藤はまだ20代で西ドイツに留学中だったが、少なくとも宮城県出身の美大生のあいだでは伝説的存在だったらしい。その後、彼が著した油彩画の技法書を読んだりしたが、その作品はほとんど見る機会がなかった。だから今回が初めてのはずなのに、なぜか40年ぶりに友人と再開するようななつかしさを覚えた。作品は家族の肖像を中心とする身近な日常的主題と、仏像や花、滝の風景など日本的主題に大きく分けられるが、どれも色彩は調色を誤ったように彩度の差が激しく、そのため人物も風景も非現実的に映る。これがウワサの佐藤一郎だったのか、と40年ぶりに納得。それにしても、エントランス正面に40枚近い石膏デッサンを貼り出したり、子どものころの絵まで見せたりして、さすが芸大一筋、絵画一筋。リッパだと思う。
2014/01/09(木)(村田真)
富士をみつめて
会期:2014/01/04~2014/01/16
東京都美術館ギャラリーB[東京都]
富士山の世界文化遺産登録を記念するコレクション展。安東聖空の《富士》と《不二》など書を中心に、北斎の《冨嶽三十六景》、広重の《名所江戸百景》、森山大道や石川直樹の写真など。福田美蘭の絵も2点もあって、しかも2点とも昨年の個展に出てなかった作品。そのうち《南フランスのホテルの富士山》はホテルのロビーを描いたもので、富士山なんかどこにも見当たらないが、よーく見ると照明カバーが台形になっていたりする。これか? あとは風呂屋のペンキ絵も見たかったなあ。都美はコレクションしてないか。
2014/01/09(木)(村田真)
フィールド・オブ・ペインティング
会期:2014/01/04~2014/01/10
東京都美術館ギャラリーC[東京都]
なんか60年代の美術を思い出した。新しい絵画を追求しようとすれば必然的に過去に戻っていくような、ねじれ現象。
2014/01/09(木)(村田真)
大阪府20世紀美術コレクション 上前智祐 展─時を刻む─点描・マッチ・縫い・版画
会期:2014/01/09~2014/01/25
大阪府立江之子島文化芸術創造センター[大阪府]
大阪府が所蔵する上前智祐の作品から、各年代の油彩画と立体36点、版画23点を展覧。また、彼が所属していた具体美術協会の、吉原治良、嶋本昭三、元永定正、松谷武判、今井祝雄の作品も同時に展示された。上前の作品は、初期の点描画、その後のオガクズやマッチ棒を塗り固めた作品、後期の針と糸による縫いの作品など、時期により素材と手法が異なる。しかし、緻密な作業の積み重ね、膨大な時間の集積という点では一貫しており、さらに後期になればなるほどアール・ブリュット的無為の境地に達する。本展は、決して大規模ではないが、上前の世界を過不足なく知ることができる見応えある展覧会だった。大阪府はほかにも優れた美術作品を所蔵しているが、自前の美術館を持たないので十分な展覧会が行なわれていない。展覧会活動の活発化を望む。
2014/01/09(木)(小吹隆文)
下道基行「TORII」
会期:2013/11/16~2014/01/19
梅香堂[大阪府]
「MOTアニュアル2012:風が吹けば桶屋が儲かる」でも展示された6年間のフィールドワーク「torii」シリーズからのセレクト。大きなプリントで見応えのある写真。作家がそこに写し取っているものの情報量の多さ、多様さに圧倒される。鳥居を撮ったシリーズのなかにあって、鳥居がもとあっていまはない場所、という写真はとくに美しく、見応えがあった。もう少しじっくりひたるべく、刊行されてまもない書籍『torii』を購入させていただく。梅香堂では2回目となる下道展だが、近くに住んでいたこともある下道にとっては、特別な場所だったに違いない。堂主・後々田寿徳氏は会期半ばの2013年末に惜しくも帰らぬ人となってしまったが、年が明けて本日からの残りの会期は作家本人が在廊してオープンしていた。大きな運河を眼下に、波板の壁面に囲まれる梅香堂の空間との相性も抜群だったと思う。
2014/01/09(木)(松永大地)