artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
フルーツ・オブ・パッション ポンピドゥー・センター・コレクション
会期:2014/01/18~2014/03/23
兵庫県立美術館[兵庫県]
フランス・パリのポンピドゥー・センターにあるパリ国立近代美術館には、支援組織「国立近代美術館友の会」がある。この会は2002年に「現代美術プロジェクト」を立ち上げ、同館への作品の寄贈を続けてきた。2012年に同会の活動10周年を記念して開催された展覧会を日本に持ってきたのが、この「フルーツ・オブ・パッション~」だ。展示作品は、寄贈作品25点と、20世紀美術のマスターピース6点。前者には、レアンドロ・エルリッヒ、ハンス=ペーター・フェルドマン、エルネスト・ネト、アンリ・サラ、ツェ・スーメイといった今が旬の作家たちが数多く含まれ、後者には、ダニエル・ビュレン、ゲルハルト・リヒター、サイ・トゥオンブリーといった巨匠が名を連ねている。これだけの面々が名を連ねる現代美術展は貴重であり、実際に驚くほど豊かな作品体験ができた。幸か不幸か本展は巡回せず、神戸でしか見ることができない。情報が伝われば、きっと全国から熱心な現代美術ファンが訪れるであろう。
2014/01/18(土)(小吹隆文)
岩熊力也 weight
会期:2014/01/06~2014/01/18
コバヤシ画廊[東京都]
東日本大震災がアーティストに及ぼした影響は計り知れないほど大きい。にもかかわらず、それを作品に反映するアーティストが依然として少ないのは、おそらく美術が、他の表現文化に比べると、相対的に遅いメディアだからだろう。写真や映像、マンガ、あるいはデモであれば、直接的かつ瞬発的に表現することも可能である。だが、絵画や彫刻が思索と制作にそれなりの時間を要することはもちろん、アートプロジェクトですら、長期的な展望と持続的な過程を、その形式の内側に抱え込んでいる。同時代の事象に目を瞑る輩は論外だとしても、美術の同時代性が作品として現象するには、ある種の「タイムラグ」を避けることができないのである。
そうしたなか岩熊力也の新作展は、その同時代性を絵画として結晶させた、きわめて稀少な展観だった。展示されたのは、布に描いた絵画をもとにしたアニメーション映像と、その絵を水で洗い流した布など。いずれも「水」をキーワードにしながら3.11以後の絵画の可能性を自問自答した作品に見えた。
ウィリアム・ケントリッジのように描写と消去を繰り返しながら制作したアニメーション映像には、蛇口やバスタブから溢れ出る水、その水で浸かる街並み、そして水の底に引き込まれる男などが寓話的に描かれている。映像のなかに描写される赤いワンピースの女があまりにも陳腐に過ぎる感は否めないが、そうだとしてもここに立ち現われた詩情性が私たちの胸を打つことに変わりはない。
その詩情性は、しかし、必ずしも津波という主題が私たちの心情と共振したことに由来しているわけではない。それは、むしろ描写と消去を繰り返す岩熊の手作業に、まことに同時代的な絵画のありようを希求してやまない私たちの欲望が重なったということなのかもしれない。描いては消し、描いては消しを反復する作業は、アニメーション作品として成立させるために不可欠な工程というより、同時代の絵画をまさぐる身ぶりの現われだったのではなかろうか。
水で絵の具が洗い流された布には、辛うじて色彩の痕跡が認められるが、ほとんど染みと滲みといった程度で、もはや何が描写されていたのか確認することはできない。すなわち絵画ではなく、たんなる物体に近い。物体に残されているのは、だから文字どおり「白紙還元」を試みつつも、最後まで洗い落とすことのできなかった、絵画という原罪とも言えよう。だが、ちょうど産卵のために清流を遡行する鮭のように、それらを川の水のなかで漂わせた映像を見ると、岩熊の視線は絵画を物体に還元しながらも、同時にそれを再生することにまで及んでいるように思えてならない。そこに、岩熊は3.11以後の絵画の可能性を賭けているのではないか。
2014/01/16(木)(福住廉)
カタログ&ブックス│2014年1月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
人間のための建築──建築資料にみる坂倉準三
2013年11月27日から2014年2月23日まで、国立近現代建築資料館にて開催された、「人間のための建築──建築資料にみる坂倉準三」展図録。坂倉研究所やフランス国立アーカイブ等の協力を得て集められた貴重な資料を全頁カラーで掲載。バイリンガル。第一部:パリ万国博覧会日本館[1937]、第二部:戦前から戦後復興期の作品、第三部:神奈川県立近代美術館[1951]、第四部:日本の都市風景となった作品群。
ドキュメント|14の夕べ||パフォーマンスのあとさき、残りのものたちは身振りを続ける
閉館後の美術館で繰り広げられたアートの饗宴、再び
2012年夏、東京国立近代美術館にて14夕連続で開催された「14の夕べ」。演劇、音楽、ダンス、朗読、美術など多ジャンルに渡る実験的イベントは大きな反響を呼び起こした。本書は「14の夕べ」とは何であったかの記録であると同時に、「記録」の新たな方法論を提示するものである。
主な出演者:谷川俊太郎、福永信、古川日出男、一柳慧、大友良英 one day ensembles、小杉武久、奥村雄樹、東京デスロック、手塚夏子、小林耕平、神村恵カンパニーほか(順不同)
[青幻舎サイトより]
シェアをデザインする──変わるコミュニティ、ビジネス、クリエイションの現場
場所・もの・情報の「共有」で何が変わり、生まれるのか。最前線の起業家やクリエイターが、シェアオフィス、ファブ・ラボ、SNS 活用等、実践を語る。新しいビジネスやイノベーションの条件は、自由な個人がつながり、変化を拒まず、予測できない状況を許容すること。ポスト大量生産&消費時代の柔軟な社会が見えてくる。
[学芸出版社サイトより]
2014/01/15(水)(artscape編集部)
プレビュー:Non-Linear/非線形プロジェクト「What’s Next?」
プレビュー:ポンピドゥー・センター・コレクション「フルーツ・オブ・パッション」
会期:2014/01/18~2014/03/23
兵庫県立美術館[兵庫県]
1977年開館、フランスはパリのポンピドゥー・センターにあるパリ国立近代美術館より、現代美術のコレクションがやってくる。日本でもよく知られるアンリ・サラ、エルネスト・ネト、ツェ・スーメイのほか、パリの若手画家のファラー・アタッシ、ハンス=ペーター・フェルドマン、イザ・ゲンツケンなど、同美術館が友の会から寄贈された19作家25点とともに、アグネス・マーティン、ダニエル・ビュレンといった現代美術の巨匠の作品6点を加えた合計25作家31点。兵庫だけの独自企画で巡回もしないということでぜひとも注目したい。
2014/01/15(水)(松永大地)