artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

2014年の初詣でる展

会期:2014/01/01~2014/01/07

黄金町八番館[神奈川県]

大晦日の夜からコタツを囲んでオープニングパーティーをしたという、おとそ気分の新春展。出品は、切れ目のあるおっぱいばかり並べた椎橋良太、階段の上に金属製の巨大ギロチン(ハリボテ)を設置した杉山孝貴、紙に荒っぽく顔を描きつけた加藤笑平と斎藤昌威、風景を描いた3面パネルをコの字型に立てた吉本伊織ら。どこか時代に乗り遅れた観のあるパッとしない作品たちだけど、流行なんぞに背を向けてマイペースで自分の信じることをやってるところに好感がもてる。みんな少し病んでるし、悩んでる。それが制作のモチベーションになっている。

2014/01/03(金)(村田真)

荒木経惟『死小説』

発行日:2013年10月31日

文芸雑誌『新潮』2012年2月号から13年8月号隔月20ページずつ連載されていた荒木経惟の「死小説」が、A5判変型の写真集としてまとめられた。209枚の写真が何のテキストもなくただ並んでいるだけ。それを「小説」と言い張るところがいかにも荒木らしい。
内容的には、これまで荒木が編み続けてきた「日録」的な構成の写真集と同工異曲のものだ。日々の出来事を撮影した写真の合間に、「Kaori」や「人妻エロス」や「バルコニー」などのお馴染みのシリーズが挿入され、新聞やポスターなどの複写が添えられる。前立腺癌の手術など、荒木自身の体調があまりよくなかったことが影響しているのだろうか。カダフィ、三笠宮寛仁、大鵬、サッチャーの訃報記事のような、“死”のイメージが大きく迫り出してきているように思える。それに加えて、連載中は東日本大震災とその後の福島第一原発の大事故の余波が重苦しくのしかかる時期だったことも見逃すわけにはいかないだろう。
このような荒木の写真集を、何冊となく見続けてきたわけだが、それでもなおページを繰るたびに、あらためてその中に引き込まれ、驚きと感嘆を押えられなくなる。おそらく彼自身、あらかじめ物語をこのように進めていこうというような予測や思惑を持って、写真を撮影したり選んだりしているわけではないはずだ。にもかかわらず、ラストの亡き父親の遺影や『往生要集』の地獄絵図などのパートまで、あたかも神の手に導かれるように、よどみなくイメージの流れが続いていく。そこから見えてくるのは、まぎれもなく荒木が「死を生きる」ことを写真家の日常として選びとっているということだ。そのことの凄みを、何度でも味わい尽くすべきだろう。

2013/12/31(火)(飯沢耕太郎)

テート・モダン

[イギリス・ロンドン]

テート・モダンへ。ヘルツォーク&ド・ムーロンによる増築工事もだいぶ進んでいた(論議があって、当初のデザインは変更されている)。それにしても、単体で現代建築が登場するのではなく、フォスターによるミレニアムブリッジによって、対岸のセントポールとつなぎ、都市計画、土木が連動できるのはうらやましい。常設は、テーマ別の展示で知られるが、前室のモネからリヒターによるケージ連作の部屋、あるいはターナーの絵からロスコのシーグラム壁画の部屋といった作品のシークエンスは鮮やかである。日本人の現代美術では、もの派(アルテ・ポーヴェラの部屋で)のほか、実験工房と、石内都の部屋を確認することができた。企画展のミラ・シェンデルが素晴らしい。抽象絵画をちょっとやわらかく、かわいくした感じで出発した後、文字を活用した作品、紙や半透明の素材を使う空間のインスタレーションなどを展開している。同じブラジルだと、リジア・クラークや建築のリナ・ボバルディらも、女性作家の幾何学表現に面白い人がいる。テートモダンでは、もうひとつクレーの企画展が開催されていた。1年、あるいは2年ごとに部屋を分け(全部で17部屋)、バウハウス、旅行、ナチスの台頭などの背景を受け、刻々と作風を変え、表現を実験していく作品の軌跡をたどる。訪れたときは巨大な吹抜けであるタービンホールでの展示はなかったが、ここでの巨大なインスタレーションを一度体験したい。

2013/12/29(日)(五十嵐太郎)

iTohen開設10周年記念 作品展

会期:2013/12/11~2013/12/28

iTohen[大阪府]

黒瀬正剛、間芝勇輔、きくちちき、asaruほか110名による計110点の平面を中心にした作品が壁いっぱい展示されるなか、権田直博の作品に目を奪われる。自分の父親の肖像(西郷隆盛をベースにした似顔絵!)をクリスタルの中にレーザーで3Dに彫った、キッチュなお土産品同様に仕上げた七色に光る10センチ程度の物体。イラストレーション作品が多いなか、この違和感で思い出した。そうだ、彼の作品は、これまでもにぎり寿司が空を飛ぶような絵だったりする作品だけでなく、お風呂に入りながら鑑賞できたり、宙に浮かせた畳に座らせたり、ギャラリーでヤギ焼き肉したり、いつもノイズを潜ませてくるんだった。

2013/12/28(土)(松永大地)

なべよこ ni アート

会期:2013/12/26~2013/12/28

鍋横大通商店会[東京都]

都内の空き物件を見つけて作品を展示してしまうヤドカリトーキョー、第12弾。中野区の鍋横商店街の約30軒の店先に20作家が作品を設置していた。が、朝近くで用事をすませて午前10時に着いたため、多くの店は開いておらず見ることができなかった。開いていたとしても飲食店はなにか注文しなければならず、敷居が高い。これはまあ仕方のないことで、全部見ようなんて思わないことだ。それでもみずほ銀行を縛った松本春崇の「家縛り」(の痕跡)や、呉服屋にぴったりの色柄の抽象画を飾った門田光雅など何点かは見ることができた。年末の商店街という過酷な環境のなかでいかに目立つか、アーティストは真剣に考えなければならない。

2013/12/27(金)(村田真)