artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

モイラ嬢のための9つの変奏曲

会期:2014/01/08~2014/01/25

神保町画廊[東京都]

「口枷屋モイラ」という名前で、コスプレやオブジェ制作など、多方面で活動している謎の女性、モイラ嬢をモデルに10人(9組)のアーティストが共演したコラボレーション展である。ギャラリーの企画力が充分に発揮され、なかなか面白い展示になっていた。中島圭一郎、伴田良輔、フクダタカヤス、村田兼一、村田タマ、渡邊安治は写真作品を、武井裕之とオオタアリサは写真とイラストの合作を、三嶋哲也は本格的な油画の肖像画を、上野航はストッキングを使ったオブジェ作品を出品していた。
このような実在のモデルを共通のテーマとするような展覧会の企画は、ありそうでなかなかないのではないだろうか。展示が成功したのは、ひとえにモイラ嬢の千変万化するキャラクターによるところが大きい。純真無垢な女生徒から妖艶な魔性の女までを、コスプレとメーキャップを駆使して演じ分ける変身能力の高さに、それぞれのアーティストが全身全霊で反応することで、彼らのいつもの作品とはひと味違ったテンションの高さが実現した。同じモデルとは思えないほどの表現力の幅の広さを、たっぷりと愉しむことができる。こうなると、この企画を一度で終わらせるのはもったいない気がしてくる。アーティストの顔ぶれを固定するとマンネリ化してくるので、違うジャンルの人たちにも声をかけて、さらに多人数のコラボレーション展を実現してほしい。平面作品のヴィジュアル・アーティストだけでなく、映像作家や言葉の表現者にも参加してもらうと、面白い広がりが期待できそうだ。

2014/01/08(水)(飯沢耕太郎)

小瀧達郎「PARIS 光の廻廊2010-2013」

会期:2013/11/20~2014/01/18

gallery bauhaus[東京都]

小瀧達郎の10年ぶりの新作展は、とても贅沢な展覧会だった。2010年から13年まで、4年間何度もパリを訪れて撮り続けた写真群は、「パリ写真」の典型と言ってよい。「パリ写真」というのは今橋映子が『〈パリ写真〉の世紀』(白水社、2003)で提起した概念で、アジェ、ブラッサイ、ドアノー、イジスらがパリを舞台につくり上げてきた、情感のこもった街と人間の写真を示す。21世紀の現在においては、パリを、伝統的な「パリ写真」の雰囲気を保って撮影すること自体がかなり贅沢なことと言える。それに加えて、小瀧は撮影とプリントのスタイルも、徹底してクラシックなものにこだわり続けた。カメラはライカM6、レンズはヘクトール50ミリ、75ミリ、タンバール90ミリ、ズミルックス35ミリ、50ミリ、モノクロームの印画紙は現在では最高品質と言えるチェコ製のFOMAである。結果として、40点あまりのプリントは、香気漂う高級感を立ち上らせる見事な出来栄えとなった。
現代のパリをベル・エポック風に再現するために、カメラアングルにも工夫を凝らした。主な被写体はポスター、壁画、彫刻、ショーウィンドーの中の商品などだが、それらの一部をクローズアップして切り取っている。余分な要素をカットすることで、あえて「パリらしさ」を強調するイメージだけを、コラージュ的に再構築するやり方を選びとったのだ。画面はすべて縦位置。これも、横位置の広がりのある画面だと、余計なものが写り込んでくるからだろう。写真の詐術と言ってしまえばそれまでだが、気持ちに余裕のあるベテラン写真家だからこそ実現できた贅沢な写真行為の集積と言える。

2014/01/08(水)(飯沢耕太郎)

小野啓『NEW TEXT』

発行所:赤々舎

発行日:2013年12月01日

1977年、京都府生まれの小野啓は、立命館大学経済学部を卒業後、2002年頃から現役の高校生のポートレートを撮影し始めた。「大人でも子供でもない年代」の高校生たちに向き合うことで、「人としての根本」を探り出したいと考えたからだ。大学を卒業して社会に出る頃、誰しも自分自身の人間形成の時期だった高校時代が気になってくるものだ。小野はそのナチュラルな気持ちの動きを、写真家としての営みにストレートに結びつけていったということだろう。
それらの写真は「青い光」というタイトルでいくつかの写真コンペに出品され、2006年にはビジュアルアーツフォトアワード大賞を受賞し、同名の写真集として刊行された。だが、小野の撮影はさらに続けられる。途中からは雑誌やフライヤーを使ってモデルを募集して、メールのやりとりで撮影の日取りを決めるようになった。モデルたちの居住範囲も関西エリアだけでなく、全国各地に広がっていく。結局、高校生たちを写した撮影総数は2013年までの11年間で550人にまで増えていた。
小野はそれらをまとめた写真集を刊行しようと考えるが、それには小野自身にも出版社にも大きなリスクがかかる。その問題をクリアーするために2012年から「『NEW TEXT』をつくって届けるためのプロジェクト」を開始した。
5,000円で写真集を予約すると、1冊は手元に届き、もう1冊が全国の図書館や学校など希望する場所に寄贈されるというものだ。参加者が500名を超えて、このプロジェクトの目標は無事達成され、赤々舎から『NEW TEXT』が刊行された。ハードカバー、344ページの堂々たる造本の写真集である(デザインは鈴木成一)。
高校生たちのこの時期にしかない一瞬の輝き(あるいは翳り)を捉えるために小野が用いたのは、決して奇をてらった撮り方ではない。撮影場所を丁寧に選び、6×7判のカラーフィルムで細部までしっかりと画面におさめていく。中間距離の写真が多いが、時にはクローズアップ、逆にやや遠くから撮影する場合もある。「笑わないこと」だけが唯一のルールと言えるだろう。解釈を押しつけるのではなく、写真から何を読み取るのかは読者に委ねるという姿勢が清々しい。小説家の朝井リョウが「全ページが物語の表紙」という言葉を帯に寄せているが、まさに言い得て妙ではないだろうか。

2014/01/05(日)(飯沢耕太郎)

シャヴァンヌ展──水辺のアルカディア

会期:2014/01/02~2014/03/09

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの初の本格的な展覧会。シャヴァンヌは知名度こそ低いものの、日本では比較的なじみ深い画家だ。それは日本の近代洋画に多大な影響を及ぼしたからであり、国立西洋美術館の《貧しき漁夫》をはじめ大原美術館や島根県立美術館などにも作品が所蔵されてるからだろう。でも実際に作品を見てみると、彼の画業はめまぐるしく移り変わる19世紀の近代絵画の流れのなかに位置づけるのは難しい。初期のころ影響を受けたのはロマン主義だが、その後は明らかに古典主義を信奉しているし、そのアルカディア(理想郷)を求める時代錯誤的な姿勢は象徴主義に通じ、淡く平坦な色彩はモーリス・ドニに先駆けている。つまり彼は印象派やポスト印象派という近代美術史のハイライトをすっ飛ばして、いきなり古典絵画からナビ派に接続しているのだ。しかし彼の画業の大半は壁画に費やされたこともあって、余計モダンアートの表舞台でスポットを浴びることは少なかった。ちょうどシャヴァンヌと仲のよかった象徴主義の画家モローがフォーヴィスムに影響を与えたように、シャヴァンヌも美術史の裏の回路に通じていたのかも。でもシャヴァンヌの場合、壁画をやってたから淡く平面的な画面を獲得できたんだろうし、結果的にナビ派に近づいたんじゃないかと推測できる。今回出品されている作品の多くは、その習作や縮小ヴァージョン。

2014/01/04(土)(村田真)

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ポンピドゥー・センター

[フランス・パリ]

ポンピドゥー・センターへ。あまり知られていないが、コンペのなかで広場の面積を最も大きくとったのが、実現したピアノ+ロジャース案だった。開催中のシュルレアリスム展では、基本的な歴史展示に加え、現代のアーティストであるポール・マッカーシーやシンディ・シャーマンの作品を混ぜる。またコレクション展示における戦後日本建築の部屋には、丹下健三やメタボリズムの作品と一緒に、具体美術の白髪一雄が入っていた。

2014/01/03(金)(五十嵐太郎)