artscapeレビュー
ユートピアを求めて ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム
2013年12月15日号
会期:2013/10/26~2013/01/26
神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]
ファッション・ブランド、BA-TSUのデザイナーの松本瑠樹が蒐集した、1917年のロシア革命から、ソヴィエト連邦が形をとる1930年代に至るポスターよる展覧会である。全体は「I.帝政ロシアの黄昏から十月革命まで」「II.ネップ(新経済政策)とロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」「III.第一次五カ年計画と政治ポスター」の3部に分かれ、約180点の大判ポスターが展示されている。
ワシーリー・カンディンスキー、カジミール・マレーヴィチ、ウラジーミル・マヤコフスキー、アレクサンドル・ロトチェンコなど、綺羅星のように並ぶロシア・アヴァンギャルドの巨人たちの作品は見応えがあるが、なんといっても圧巻なのは「II.ネップ(新経済政策)とロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」のパートに展示されたウラジーミルとゲオールギーのステンベルク兄弟の映画ポスター群だろう。この時期、ソヴィエト政府は大衆宣伝・娯楽としての映画上映に力を入れ、国内で製作された映画だけでなくアメリカ、ヨーロッパの映画も積極的に公開していた。ステンベルク兄弟は、ロシアの民衆芸術に起源を持つ、原色を駆使した独特の色彩感覚と、モンタージュや構成主義的な画面構成のようなアヴァンギャルドの手法を融合させ、生命力あふれる力強い映画ポスターを次々に発表していった。さらに1930年代以降のグスタフ・クルーツィスらの政治ポスターになると、写真を使用する比重がより大きくなり、フォト・モンタージュの可能性が極限近くまで追求されることになる。美と政治との軋轢のなかから花開いていったソヴィエト連邦のグラフィック・デザインと写真を、もう一度新鮮な眼で見直すいい機会となる展示だった。
2013/11/23(土)(飯沢耕太郎)