artscapeレビュー

田中雄一郎「ATLAS BLACK」

2013年09月15日号

会期:2013/08/24~2013/09/22

photographers' gallery[東京都]

田中雄一郎は1978年、埼玉県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科在学中から写真作品を発表しはじめ、現在は九州産業大学大学院に在籍しながら精力的に個展などを開催している。今回、東京・新宿のphotographers' galleryのメンバーになることになり、年2回ほどのペースで展示することが決まった。写真家としての潜在能力の高さは、以前から注目していたのだが、コンスタントに作品を発表することで、さらなる飛躍が期待できそうだ。
今回展示された「ATLAS BLACK」は、2006~09年頃に東京とその周辺で撮影されたモノクロームのスナップショットのシリーズ。大伸ばし3点を含む24点の作品にどこか既視感を覚えるのは、それらが1960年代後半の森山大道、中平卓馬らの作品から脈々と流れる都市のストリート・スナップの流れに、ぴったりとおさまってしまうからだろう。ややカメラを傾けたアングルや、人工光への鋭敏な反応なども、どちらかと言えば目に馴染んできたものだ。そのことを特に否定的に捉える必要はないが、やはり「そこから先」を見てみたい気がする。路上に記された矢印や「国道15号」とい行った表記、廃車のボンネットの埃を指でなぞった落書きなど、グラフィックな要素をより強調するのも面白いかもしれない。
これから先は、2010年から撮影を開始したブラジルの写真や、カラー写真のスナップなども順次展示していく予定だという。photographers' galleryという絶好の環境を活かして、新作にも意欲的に取り組んでいってほしいものだ。

2013/08/27(火)(飯沢耕太郎)

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