artscapeレビュー
茂木綾子「ノマド村」
2013年09月15日号
MISAKO & ROSEN[東京都]
会期:2013/07/28~08/25(8/12~16休)
茂木綾子の名前は懐かしい。1990年代初め、「写真新世紀」の公募がスタートしたばかりの頃、若い女性モデルをふわっとした調子の画像で撮影したポートレートのシリーズが出品された。それがデビュー当時の茂木の作品で、たしか荒木経惟が優秀賞に選んだはずだ。Hiromixや蜷川実花が登場する少し前の、「ガーリー・フォト」の走りというべき作品だったのをよく覚えている。
その後、彼女はヨーロッパに渡り、ドイツ出身のアーティストのヴェルナー・ペンツェルというパートナーを得て、写真以外に映画作品なども制作するようになる。スイスの古城をアーティスト・イン・レジデンスとして開放するプロジェクトに参加した後、4年前に帰国して兵庫県淡路島に居を定めた。今回のMISAKO & ROSENの個展は、「アート、音楽、写真、映画、食、農、暮らしなどにまつわるさまざまな活動の紹介、交流授業」を展開するため、ヴェルナーとともに淡路市長澤に設立した「ノマド村」のたたずまいを撮影した写真を中心に構成されていた。
基本的には廃校になった小学校を改装した施設のディテールを、丹念に、静かに写しとったドキュメントなのだが、壁や床の有機的な素材の質感をそっと撫でるようにカメラにおさめていく眼差しに、優しさと落ち着きがある。かつての彼女の写真の、軽やかに宙を舞うような躍動感はないのだが、複数の写真を繋ぎ合わせていく手際に、細やかな気配りと表現としての成熟を感じた。今回は人の姿をあえて外したようだが、「ノマド村」の住人たちの暮らしぶりももっと見てみたいと思った。
2013/08/22(木)(飯沢耕太郎)