artscapeレビュー

薄井一議「Showa88/ 昭和88年」

2013年07月15日号

会期:2013/06/15~2013/08/08

写大ギャラリー[東京都]

薄井一議が2011年にZEN FOTO GALLERYで「Showa88」展を開催したとき、やや奇妙に感じたのは、2011年は「昭和86年」であり「昭和88年」ではなかったことだった。もし彼が、2013年=昭和88年にも展覧会を開催することを見越してこのタイトルを選んだとすれば、かなりの配慮ということになるのだが、実際はそうではないのではないか。「Showa88」という響きのよさに惹かれたのだろう。いずれにしても、1998年に、彼の母校でもある東京工芸大学の中にある写大ギャラリーで、このシリーズをあらためて展示できたのは、薄井にとってもわれわれ観客にとってもとてもよかったのではないかと思う。彼の作品が孕む可能性をあらためて確認することができたからだ。
今回は大判プリント18点による展示である。飛田新地(大阪)、五条楽園(京都)、栄町(那覇)など、昭和の匂いが色濃く残る歓楽街のたたずまいを、一癖も二癖もありそうな住人たちとともにおさえたこのシリーズは、薄井の代表作になっていくのではないか。けばけばしいピンク色をそこここに登場させることによる、目くらましのような視覚的効果もうまく計算されている。ノスタルジーやエキゾチシズムに過度に寄りかかることなく、日本=東アジアに特有の生の形をしっかりと見出していこうという志向性を、強く感じることができた。
とすると、このシリーズは、もう少し長いスパンで撮り進めてもいいのではないだろうか。会場に展示されていた作品は、すべて前回のZEN FOTO GALLERYでの「Showa88」展のときに刊行された、同名の写真集におさめられていたものだった。新作の「Showa88」もぜひ見てみたいと思う。

2013/06/16(日)(飯沢耕太郎)

2013年07月15日号の
artscapeレビュー