artscapeレビュー
村田兼一「眠り姫~Another Tale of Princess」出版記念展
2013年07月15日号
会期:2013/06/12~2013/06/29
神保町画廊[東京都]
村田兼一は1990年代半ば頃から、モノクローム・プリントに彩色した耽美的なヌード・フォトを発表し続けてきた(手彩色は山崎由美子による)。相当にきわどいポーズの写真が多いにもかかわらず、どこか品のよさを感じさせ、浮世絵に通じるような手の込んだ工芸品としての魅力も備えた村田の作品は、ヨーロッパで人気が高く、特にドイツでは『JAPANESE PRINCESS』(Edition Reuss, 2005)以来、すでに写真集が4冊も刊行されている。ところが日本ではなぜか本格的な写真集出版が実現していなかった。今回初めて『眠り姫~Another Tale of Princess』(アトリエサード)が刊行されたのを記念して、神保町画廊で開催されたのが本展である。
写真集におさめられている手彩色作品の代表作も展示されていたのだが、僕がむしろ注目したのは近作のデジタルカメラを使った写真群だった。村田のヌード・フォトは、ブログなどを通じてコンタクトをとり、大阪市近郊の彼の自宅を改装したスタジオを訪れた女性モデルたちとの共同作業というべきものである。以前は村田の世界観にモデルを「当てはめていく」傾向が強かったのだが、最近は彼女たちの個性をのびのびと発揮させるように、対話を繰り返しながら撮影を進めていくようになった。その相互交換的なコミュニケーションのあり方が、デジタルカメラを使うことでさらに加速され、軽やかなものに変わりつつあるのではないかと思う。
すでにドイツで写真集として刊行された『UPSKIRT VOYEUR』(Edition Reuss, 2012)にもはっきりとあらわれているのだが、スナップショット的な偶発性を活かした撮影のやり方によって、村田の写真の世界にのびやかな風が吹き通ってきているように感じる。これから先の彼の作品は、細やかにつくり込んだ手彩色写真と、デジタルカメラによるスナップショットとの二本立てで進めていくべきなのではないだろうか。
2013/06/15(土)(飯沢耕太郎)