2020年11月15日号
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artscapeレビュー

齋藤陽道『感動』

2011年12月15日号

発行所:赤々舎

発行日:2011年11月1日

齋藤陽道の作品にはじめて出会ったのは2009年の写真新世紀の審査のときで、その「タイヤ」は僕が佳作に選んだ。走行中のトラックの巨大なタイヤを至近距離で撮影した素晴らしい迫力の作品で、どんな作者なのかと思っていたら、授賞式に現われた彼を見て驚いた。聾唖の写真家だったのだ。齋藤は次の年には「同類」で優秀賞(佐内正史選)に選ばれ、赤々舎からこの写真集『感動』を出すことになった。順調にキャリアを伸ばしているといえるだろう。
聾唖というハンディキャップについていえば、写真撮影においてはそれほど大きな傷害にはならないのかもしれない。むしろ、音のない世界で被写体に対する集中力を高めることができるからだ。福岡に井上孝治(1919~93)という写真家がいて、彼もやはり耳が不自由だった。だが、特に子どものスナップに天才的な能力を発揮し、『想い出の街』(河出書房新社、1989)、『こどものいた街』(同、2001)という心に残る写真集を刊行している。井上もそうなのだが、齋藤の写真を見ていると被写体になる人物や風景をつかみ取るときの強さと思いきりのよさを感じる。ためらいなく、すっとカメラを向け、ぐっと近くに引き寄せてシャッターを切る。その身体感覚の鋭敏さは、もしかすると聴覚障害者に特有のものなのかもしれないと思う。
この勢いと鮮度を保ちつつ、あの「タイヤ」のように、わけのわからない衝動に突き動かされた写真ももっと見てみたい。日本以外の国にもどんどん出かけてほしい。彼に対する期待がどんどん大きくふくらんできている。

2011/11/08(火)(飯沢耕太郎)

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