artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス│2012年3月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
今和次郎 採集講義
「今和次郎 採集講義」展(2011年10月29日〜12月11日、青森県立美術館/2012年1月14日〜3月25日、パナソニック電工汐留ミュージアム)カタログ。
関東大震災後、復興していく東京の記録から始まった「考現学」。服飾・風俗・生活デザイン─和次郎の活動をいま考察する。昭和初期、急速に大都市化していく東京の都市環境や、人々の生活の変化をつぶさにとらえた考現学の創始者、今和次郎の全貌を紹介。[青幻舎サイトより]
みんなが描いた「みんなの家」
伊東豊雄、山本理顕、内藤廣、隈研吾、妹島和世からなる帰心の会によって、呼びかけられた〈「みんなの家」を描こう〉プロジェクト。世界22カ国、171名(グループ)の建築家をはじめ、デザイナー、フォトグラファー、画家、学生、さらに小学生、幼稚園の子どもから寄せられたドローイングは、2011年7月30日に開館した今治市伊東豊雄ミュージアムに展示されている(2012年4月1日まで)。当該展覧会は、3.11東日本大震災で被災したせんだいメディアテークでも同時開催された(2011年7月29日〜9月1日)。本書は、〈「みんなの家」を描こう〉プロジェクトにドローイングをお送りくださった皆様への御礼として制作された。
プロジェクト・ジャパン メタボリズムは語る…(日本語版)
2005年から2011年の長期にわたり、建築家のレム・コールハースとキュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリストは、メタボリズムの現存者をはじめ、彼らの師、仕事仲間、ライバル、批判者、弟子、家族たちへのインタビューを行った。その集大成として作られた本書は、世界最後の前衛運動を生き生きと映し出し、建築が私的な現象ではなく、パブリックのためのものであった最後の瞬間を捉えたドキュメンタリーである。[本書より]
鉄川与助の教会建築/五島列島を訪ねて
棟梁建築家として長崎の教会建造に惜しみない情熱を燃やし続けた鉄川与助による教会建築の軌跡を、風土色豊かな撮り下し写真とともに辿る。五島列島の美しい風景を垣間見ながら、鉄川与助の教会建築を詳細にひも解く初の書籍。2012年3月8日(木)から5月26日(土)にLIXILギャラリー(旧INAXギャラリー)で行われる同名展覧会と併せて刊行。[INAX出版サイトより]
3.11東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか
国際交流基金巡回展「3.11──東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」の仙台展会場で配布されるカタログ。2012年3月より2年間で海外各地を巡回する本展覧会は、被災地である仙台における東北大学の仮校舎から始まる。(仙台展:2012年3月2日(金)〜3月18日(日))東北地方を中心に甚大な災禍をもたらした東日本大震災に対する各地の建築家の多様な動きを取り上げる。震災発生直後から今日までに実施あるいは計画されたプロジェクトを3つの段階ー第1段階「緊急対応」第2段階「仮設住宅」第3段階「復興計画」ーに整理するとともに、海外の建築家からの復興のための提案も合わせて紹介する。[本書より]
S-meme 03ショッピングと震災 SSD 2012 PBL studio01:media
仙台から発信する文化批評誌『S-meme』第3号。「震災とショッピング」をテーマに、仙台の状況を読み解く。「ショッピング」にちなんで、本書でとりあげたショッピングモール群の位置を知らせる地図が「包み紙」のように本をくるんでいる。[Sendai School of Designサイト]
2012/03/15(木)(artscape編集部)
鞍田崇×服部滋樹『〈民藝〉のレッスン──つたなさの技法』出版記念トーク
会期:2012/03/01
MEDIA SHOP[京都府]
20世紀初め、柳宗悦が先導者となり展開した民藝運動。近年、若い世代の人々からも関心が寄せられている。今年一月末に出版された『〈民藝〉のレッスン──つたなさの技法』(フィルムアート社)は、「なぜいま民藝なのか?」というテーマのもと、料理研究家やデザイナー、建築家、哲学者、文化人類学者など、さまざまなフィールドで活躍する人々が、民藝についてそれぞれの視点から論じている本。この編著者であり哲学者でもある鞍田崇さんと、ゲストの服部滋樹さん(graf代表)による出版記念トークが開催された。会場は立ち見の人も出るほどの超満員の状態。約2時間にわたり、「今の時代を生き抜くためのヒント」が民藝にはあるのではないかという切り口でさまざまな話が繰り広げられた。民藝運動の理念やその実践、柳宗悦の思想など、ある程度の知識がなければ理解しにくい内容もあったが、消費と生活速度、自らの暮らしに対する「愛おしさ」、生活空間と身体感覚、モノに対する考え方など、さまざまな関係性から問題を提起しつつ民藝を再考、意見を交わし合う二人のトークはもっと考えてみたいという意識を喚起するもので刺激があった。4月から月に一度のペースで鞍田氏がホストとなり、毎回関連ゲストを迎えてのレクチャーが行なわれる予定。
2012/03/01(木)(酒井千穂)
原研哉『日本のデザイン──美意識がつくる未来』
著者:原研哉
発行日:2011年11月
発行所:岩波書店
定価:840円(税込)
サイズ:新書、256頁
とにかく読んでいて「はっ」とさせられることの多い本である。デザイナーとして活躍し、近年とりわけ、海外で日本のデザインを紹介する展覧会の仕事を手掛ける著者が、日本のデザインの原点と未来とを照射する。外から見た日本のデザインのありようを示したうえで、日本固有の美意識・価値観を明らかにし、これからの日本のものづくりにそれらがどう生かされるべきかについて問題提起する。グローバル化する社会、また活性化するアジア全体のなかで、日本──低成長時代と東日本大震災を経験し、社会の大きな転換期を迎えつつある──のデザインには、どのような可能性があるのか。その問いに応えるべく、六つの章が用意される。1)移動:デザインのプラットフォーム、2)シンプルとエンプティ:美意識の系譜、3)家:住の洗練、4)観光:文化の遺伝子、5)未来素材:「こと」のデザインとして、6)成長点:未来社会のデザイン。本書は、我が国がデザイン立国としてしなやかに生きるすべを提示するだけでなく、「デザイン」が本質的に未来を志向するものだということを教えてくれる。[竹内有子]
2012/02/19(日)(SYNK)
カタログ&ブックス│2012年2月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
深読み! 日本写真の超名作100
artscapeレビューの執筆者でもある、写真批評家・飯沢耕太郎の最新著作。1850年から2011年までの、究極の、絶対に見ておきたい写真101点を収録。彼の手で丁寧に選び取られた「日本写真」の超名作と、それぞれに付された「深読み」が、150年にわたる壮大な写真史の広がりを浮かび上がらせる。
MP1 artist's book Expanded Retina│拡張される網膜
写真を主とした制作活動を行う美術家エグチマサル・藤本涼・横田大輔・吉田和生と、批評家・星野太(表象文化論)によるプロジェクト「MP1」初のアーティストブック。2012年1月21日よりG/P gallery(恵比寿)にて開催された同名の展覧会に合わせての出版された。MP1メンバーと飯沢耕太郎(写真評論家)・後藤繁雄(編集者)・粟田大輔(美術批評)・天野太郎(横浜美術館主席学芸員)との対談、伊藤俊治トークショー等を収録。
地域社会圏主義
高齢者や一人世帯がさらに増えていくすぐそこの未来、私たちは自身の生活とそれを受け止める器である住宅をどのようにイメージし、また獲得していくことができるのか。2010年春に刊行され、話題をよんだ『地域社会圏モデル』から大きく一歩踏み込んで、2015年のリアルな居住像を提案する。上野千鶴子(社会学)、金子勝(経済学)、平山洋介(建築学)との対談も収録。[INAX出版サイトより]
富士幻景──近代日本と富士の病
古来から日本人の崇敬を集めた富士山が、幕末以降の近代化と対外戦争のプロセスの中で国家の山へと変容していく様子を写真や印刷物340点から辿る。IZU PHOTO MUSEUMで2011年に開催された「富士幻景──富士にみる日本人の肖像」展関連書籍。
あなたとわたし わたしとあなた──知的障害者からのメッセージ
みんな、生きているんだ。──東京・恵比寿で約30年間、知的障害者の生活支援を続けている特定非営利活動法人ぱれっと。そこで、働き、くらし、遊ぶ、知的障害者の人たち。それぞれが人として一生懸命生きている姿を、60点を超える写真から感じ取っていただけたら。そして、障害のあるなしではなく、全ての人があたり前に生きていける社会を考えるための写真絵本です。[小学館サイトより]
2012/02/15(水)(artscape編集部)
Thought in Japan──700通のエアメール「瀬底恒が結んだ世界と日本」
会期:2011/11/11~2012/01/19
ギャラリーA4[東京都]
企業PR誌制作のさきがけ、コスモ・ピーアールで長年にわたり編集者として活躍した瀬底恒(せそこつね、1922~2008)の人と仕事を紹介する。展覧会は、瀬底恒とコスモ・ピーアールにおける仕事のクロノロジー、母親の万亀と交わした700通に上る書簡、瀬底が留学時代に再発見したグリーン兄弟によるカリフォルニアのジャポニズム建築、そして写真家・石元泰博によるグリーン兄弟の建築作品の写真から構成される。
瀬底恒は戦後間もない1952年に米国に留学。戦前には、母親の親類である柳宗悦を頼り、二年ほど日本民藝館に勤めている。そのため、1952年12月に柳宗悦、濱田庄司、バーナード・リーチがアメリカ講演を行なった際に同行したり、1956年のアスペン国際デザイン会議で柳宗理がスピーチをした際の通訳、また帰国直前の1959年6月には棟方志功の講演の通訳を勤めている。当時忘れられていた建築家グリーン兄弟(Charles Sumner Greene & Henry Mather Greene)の作品に着目し、日本への紹介も行なっている。1959年9月に帰国後は、1960年に東京で開催された世界デザイン会議の事務局次長として外国人デザイナー、建築家たちとの交渉に当たったという。そして1961年、留学時代の友人であった佐藤啓一郎・松田妙子夫妻が創業したPR会社、コスモ・ピーアールに入社、1996年に退社するまで、日本企業の海外向けPR誌の編集に携わった。写真家ユージン・スミスを招いて日立製作所の現場を撮影させたり、海外のデザイン・建築の思潮を日本に紹介する仕事もしている。また、企業広報誌を通じては、ただその企業を紹介するばかりではなく、田中一光ら著名なデザイナーや写真家と協働し、日本の文化を海外へ向けて発信し続けてきた。展覧会場のある竹中工務店とは企業誌『approach』(1964年創刊)を通じての関わりである。
瀬底恒がどれほど多くの人々、それも一流の人々と仕事をしてきたのか。瀬底恒82歳のときに刊行されたメッセージ集『瀬底恒を巡る100人のボーイフレンド・ガールフレンド』(非売品、2004年2月)の制作発起人には石元泰博、川添登、三宅一生、柳宗理らが名をつらね、誰もが名を知る建築家、デザイナー、写真家、ジャーナリスト、クライアントたちが彼女との思い出を証言している。その副題「戦後日本のデザイン界を支えた瀬底恒さん」は少しも誇張ではない。彼女がコーディネーターとして果たした役割は、勝見勝や川添登と同様に、戦後日本の建築史・デザイン史におけるキーといえるにもかかわらず、本人が裏方に徹して批評活動など行なわなかったこともあり、本当に情報が少ないのが残念である。彼女は自分の仕事を「団子の串」と例えたそうであるが、人と人、人と場、人と仕事とを結びつける存在の重要性に、もっとスポットライトを当てていかなければいけないのかもしれない。[新川徳彦]
2012/01/19(木)(SYNK)