artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

カタログ&ブックス│2010年07月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

KEIKO SASAOKA EQUIVALENT

発行日:2010年
発行:Rat Hole Gallery
価格:2,400円(税込)
サイズ:156×180mm

笹岡啓子によるランドスケープの写真作品19点を収録。Rat Hole Galleryから刊行。


別冊KALEO DOCUMENT MAU M&L/L 武蔵野美術大学 美術館・図書館 新棟落成記念

発行日:2010年6月26日
発行:武蔵野美術大学 美術館・図書館
サイズ:B5判

武蔵野美術大学 美術館・図書館の情報誌KALEOの別冊版。2010年4月1日に開館した同館の図書館棟について、設計の理念や経緯、つかわれ方、美術大学の図書館としての可能性などを概説。



Y時のはなし

発行日:2010年8月25日
発行:アート・ユニオン
価格:2,100円(税込)
サイズ:DVD-Video

学童保育が舞台のファンタジックメロドラマが二年の歳月を経て長編としてリマスター!!子供の事情、大人の都合重なり合わない世界はY時のときだけうまくいく。(DVD封入コピーより)

Voluntary Architects' Network 建築をつくる。人をつくる。──ルワンダからハイチへ

著者:坂茂+慶應義塾大学SFC坂茂研究室
発行日:2010年7月15日
発行:INAX出版
価格:2,500円+税
サイズ:A5判変

建築家・坂茂が立ち上げた「Voluntary Architects' Network」による1995年の阪神・淡路大震災から、2010年のハイチ地震までの災害復興をはじめとする活動紹介、北山恒氏、ブラッド・ピット氏との対談などを収録。社会から求められる建築家のあり方に迫る。

横井軍平ゲーム館 RETURNS ゲームボーイを生んだ発想力

著者:横井軍平・牧野武文
発行日:2010年6月30日
発行:株式会社フィルムアート社
価格:2,000円+税
サイズ:B6判

1997年刊行の「横井軍平ゲーム館」(アスキー)の復刊。数々の名作玩具を生み出した横井軍平氏の発想力に迫とは。




『SITE ZERO/ZERO SITE』No.3

責任編集:田中純
特集企画:門林岳史
発行日:2010年6月1日
発行:メディア・デザイン研究所
装丁+本文デザイン:秋山伸[schtücco] w/optexture
価格:2,200円(税込)
サイズ:B6判変

特集=ヴァナキュラー・イメージの人類学
門林岳史、ジェフリー・バッチェン、岡田温司、前川修、唄邦弘、増田展大、浜野志保、畠山宗明、石谷治寛、長谷正人、田中純、佐藤守弘、中沢新一、ミリアム・ブラトゥ・ハンセン、マリ=ジョゼ・モンザン、山本圭、南後由和、榑沼範久

2010/07/15(木)(artscape編集部)

『桑沢スペース年報2009-10』

発行所:桑沢デザイン研究所

発行日:2010年7月13日

専門学校桑沢デザイン研究所は、ヴィジュアル、プロダクト、スペース、ファッションという四つのデザイン分野に分かれている。スペースデザインはそのひとつで、建築やインテリアを学ぶ学生が集まるが、本誌は年報という形で活動をまとめたものである。非売品であり学内でしかなかなか見ないが、そのクオリティが非常に高い。それもそのはず、編集アドバイザーにはフリックスタジオの磯達雄氏が加わっている。責任者は専任講師である大松俊紀氏。しかし、製作は「桑スペ製作実行委員会」の学生中心である。この冊子自体もひとつの作品となっているといえるだろう。卒業制作を紹介すると同時に、各課題での作品紹介や各講師の講義紹介にもなっている。いわゆる学校案内の枠を超え、それと雑誌等の中間的な位置づけになるような冊子であるのが興味深い。発展すれば、売っていてもおかしくないようなクオリティになるのではないかと思う。

2010/07/13(火)(松田達)

”Paris cote cours”

発行所:Editions du Pavillon de l’Arsenal / Picard Editeur

発行日:1998年

パリの中庭に関する論考のアンソロジー。パリ市都市建築展示資料情報センター(Pavillon de l’Arsenal)における「パリ、中庭側/都市の背後にある都市」展(1998年2~4月)が開かれた際にまとめられた本。監修はピエール・ガンニェ。パリにおいて建物のなかの一室は、窓がどちらにあるかによって基本的につねに通り側か中庭側に分かれる。言い換えれば、建物のファサードは通り側と中庭側の二面に分けられるということでもある。通常、ファサードといえば通り側であるが、中庭側にもファサードがあり、かつそれはあまり言及されることがなかった。都市論の文脈で、中庭側のファサード、そして中庭そのものが、まとめて論じられたことは、いくつかの研究を除いてこれまでほとんどなかった。本書では、モニク・エレブ、エリック・ラピエール、ロジェ=アンリ・ゲラン、ジャック・リュカンといった研究者や、アレクサンドル・シュメトフ、ブルーノ・フォルティエ、アンリ・シリアニ、クリスチャン・ド・ポルツァンパルク、ドミニク・リヨン、フレデリック・ボレルといった建築家が、それぞれの視点から中庭を語るという充実した内容であり、情報量としては、その多様性と奥深さによってパリの中庭に関する金字塔的な本となっている。中庭では、表から隠れていたがゆえに、建築的な実験が起こりやすかったことなど、中庭の建築・都市的な意義がさまざまに記述されており興味深い。なお筆者は2010年7月3日から7月15日まで清澄白河のギャラリー兼アートショップ深川ラボにて個展を開かせていただいており(松田達展「都市建築へ」)そのなかで「中庭」の可能性を問うたことから本書を改めて取り上げた。

2010/06/30(水)(松田達)

ジョナサン・グランシー『失われた建築の歴史』

発行所:東洋書林

発行日:2010年4月

おもしろいコンセプトの本である。建築史は、結果的に現在まで残された各時代の建築をつなぎながら、物語を語っていく傾向をもつ。だが、多くの建築は消えてしまう。むろん、すべて建築が永遠に残ることなどありえない。何かがとり壊され、何かが新しく出現する。地震や火災、老朽化や再開発、あるいは爆撃やシンボルの破壊など、理由はさまざまだ。そして現存しないものは、歴史に残りにくい。ゆえに、本書は、大判の図版を使いながら、失われた建築を紹介する。建物が破壊されることも、歴史の営みなのだ。実は筆者も、こうしたテーマで書いてみたいと前々から思い、大学院の講義でもとりあげていたので、ちょっとやられたという気持ちがある。最近、刊行した磯達雄との共著『ぼくらが夢見た未来都市』(PHP新書、2010年)では、万博を軸に少しだけ、類似したトピックを扱うことができた。『失われた建築の歴史』でも、最終章「製図版に残された夢」が、いわゆるアンビルドのユートピア的な建築を論じている。しかし、やはり実際に一度は存在したすぐれた建築が、何らかの理由で消えたという歴史的な事実の重みの方が圧倒的に興味深い。これは古代から現代まで、人類の夢の跡をたどっていく、美しい本である。

2010/06/30(水)(五十嵐太郎)

内藤廣『著書解題』

発行所:INAX出版

発行日:2010年6月1日

本書は、『INAX REPORT』において連載された内藤廣の対談をまとめたものである。といっても、建築家が自己表現するような内容ではない。20世紀後半の日本建築の歴史に一石を投じた本をとりあげ、その著者と対談を行なっている。例えば、『空間へ』の磯崎新、『神殿か獄舎か』の長谷川尭、『都市住宅』を編集した植田実、『建築の滅亡』の川添登、あるいは『桂 KATSURA─日本建築における伝統と創造』の写真を撮影した石元泰博らだ。これは勉強になる、とてもいい連載だと思っていた。ちょうど、20世紀の折り返し地点である1950年生まれの内藤だからこそ、建築家として同時代を共有した経験をもとに、著者とともに本とその背景をふりかえりながら、解題を行なう。書物が消えていくとささやかれる情報化の現在、本の力を改めて思い起こさせる好企画だ。したがって、本書には歴史的な資料としての価値がある。巻末の「本と論文にみる現代建築思潮年表」も嬉しい。

2010/06/30(水)(五十嵐太郎)