artscapeレビュー

”Paris cote cours”

2010年07月15日号

発行所:Editions du Pavillon de l’Arsenal / Picard Editeur

発行日:1998年

パリの中庭に関する論考のアンソロジー。パリ市都市建築展示資料情報センター(Pavillon de l’Arsenal)における「パリ、中庭側/都市の背後にある都市」展(1998年2~4月)が開かれた際にまとめられた本。監修はピエール・ガンニェ。パリにおいて建物のなかの一室は、窓がどちらにあるかによって基本的につねに通り側か中庭側に分かれる。言い換えれば、建物のファサードは通り側と中庭側の二面に分けられるということでもある。通常、ファサードといえば通り側であるが、中庭側にもファサードがあり、かつそれはあまり言及されることがなかった。都市論の文脈で、中庭側のファサード、そして中庭そのものが、まとめて論じられたことは、いくつかの研究を除いてこれまでほとんどなかった。本書では、モニク・エレブ、エリック・ラピエール、ロジェ=アンリ・ゲラン、ジャック・リュカンといった研究者や、アレクサンドル・シュメトフ、ブルーノ・フォルティエ、アンリ・シリアニ、クリスチャン・ド・ポルツァンパルク、ドミニク・リヨン、フレデリック・ボレルといった建築家が、それぞれの視点から中庭を語るという充実した内容であり、情報量としては、その多様性と奥深さによってパリの中庭に関する金字塔的な本となっている。中庭では、表から隠れていたがゆえに、建築的な実験が起こりやすかったことなど、中庭の建築・都市的な意義がさまざまに記述されており興味深い。なお筆者は2010年7月3日から7月15日まで清澄白河のギャラリー兼アートショップ深川ラボにて個展を開かせていただいており(松田達展「都市建築へ」)そのなかで「中庭」の可能性を問うたことから本書を改めて取り上げた。

2010/06/30(水)(松田達)

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