artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
和田菜穂子『近代ニッポンの水まわり』
発行所:学芸出版社
発行日:2008年9月10日
本書は、日本における居住空間の変化を水まわりの設備という視点から読みといたものである。近代は家事労働の効率化や生活の合理化をめざしたが、それがもっとも劇的にあらわれるのが、洗濯機、FRP製の浴槽、ステンレス・キッチンなど、新しいシステムの登場だ。むろん、丹下健三や池辺陽などの建築家も、1950年代に水まわりを中央に配するコア・システムを提案したが、彼らの空間的な工夫よりも、企業による製品の発明は、はるかに大きなインパクトを社会にもたらす。本書は、「台所・風呂・洗濯のデザイン半世紀」というサブタイトルがうたうように、現在われわれが当たり前のように享受している生活の原風景がいかなる経緯で誕生したかを住宅のパーツから追う。以前、筆者は大川信行氏と共著で『ビルディングタイプの解剖学』という本を出し、設備やシステムの視点から、病院や監獄、工場や倉庫などの諸施設の近代化を読みといた。『近代ニッポンの水まわり』も、住宅というジャンルをベースに建築を解剖しながら、近代化を分析したものといえよう。なお、本書の最終章では、電機洗濯機など、水まわりの製品の広告を分析しているが、主婦のイメージやキャッチコピーを通じて、社会の世相が浮かびあがるのも興味深い。
2010/05/31(月)(五十嵐太郎)
貝島桃代『建築からみた まち いえ たてもの のシナリオ』
発行所:INAX出版
発行日:2010年3月31日
この本に図版はない。文庫本のサイズだから、手軽にもって、屋外でケータイの画面ではなく、書を読む楽しむを改めて教えてくれる。筆者が初めて読んだ貝島桃代の文章は、本書の最後に収録されている、「あとがきにかえて」と題された「シナリオ・シティズー1991」だ。これは『建築文化』の懸賞論文で入賞したものである。当時、筆者は大学院生で、自分よりも若い学生が15の断片的なシナリオで東京の私的な風景を鮮やかに描いていたことに驚いた。もう20年近く前のテキストであり、しかもバブルの時代だったとはいえ、今でも彼女の姿勢は変わっていない。実際、本書のタイトルにも「シナリオ」という言葉が入っている。シナリオとは、抽象的な建築や空間の構成論ではなく、そこで人がどのように感じ、どのようにふるまうかを言語化したものだ。せんだいメディアテークの観察、子どもの頃の遊び、中国、スイス、ロサンゼルスから筑波まで、世界各地の街の分析も、貝島が文を書くのは、それぞれのシナリオを抽出していく行為である。これまでアトリエ・ワンの活動として括られたり、パートナーの塚本由晴の理論的な言説が前面に出ていたが、本書のおかげで、彼女の思考が明瞭に浮かびあがる。
2010/05/31(月)(五十嵐太郎)
『conditions』
発行所:Zoom Grafisk AS
発行日:2009年
2009年創刊の新しいノルウェーの季刊の建築雑誌。タイトルは、建築とアーバニズムの「条件」を議論するための雑誌であることを示している。初号の冒頭には、イメージやブランドといった表面的な価値を重視する建築雑誌に対して、より本質的な価値を「条件」とともに考えようとしていることと、建築やアーバニズムは、それを成り立たせている社会的、政治的、経済的、文化的「条件」と切り離すことができず、その「条件」とともに議論をしていく、という方向性が触れられている。これまでの特集が面白いので紹介しておく。この一年の特集は、01「進化のための戦略」02「コピーと解釈」03「魅惑的な妥協」04「追加された価値の生産」である。HPを見ると、次の企画「メタコンペティション」も興味をそそられる。つまりコンペティションのコンペティションであり、建築のコンペのポテンシャルが問われているという。日本では新しい雑誌が生まれにくい今、今後のさらなる展開が期待されよう。
http://www.conditionsmagazine.com/
2010/05/25(火)(松田達)
カタログ&ブックス│2010年05月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
Architecture as Frame
1988年から2009年までの坂牛卓の建築作品集。年代順に構成された作品のイメージ、スケッチ、図面、そして建物と出来上がるまでの過程を見ることができる。坂本一成などの寄稿も掲載。
アートのみかた
1999年から2009年まで本サイトに掲載した村田真氏のアートレビューをまとめた一冊。この10年のアートシーンを比較して読むことができる。現在も本サイトにて連載中。
artpic site
美術だけではなく建築やデザイン、サブカルチャーなどジャンルを横断し批評する暮沢剛巳のアート批評集。
REFLECTION
2010年2月6日から5月9日まで、水戸芸術館現代美術ギャラリーで行なわれた「リフレクション—映像が見せる“もうひとつの世界”」のカタログ。作品の解説や、作者へのアンケート同時に掲載。
THREE DUBS
2009年9月に行なわれた若手芸術家・キュレーター支援企画「1floor 2009『THREE DUBS』」の記録集。作品写真はもちろん、展覧会終了までのドキュメント写真や、作家へのインタビューも掲載。
ポスト・フォッシル
2010年4月24日(土)から 6月27日(日)まで21_21 DESIGN SIGHTで行なわれている「ポスト・フォッシル:未来のデザイン発掘」展のカタログ。
建築家を知る/建築家になる
建築家を志す人や、知ろうと思う人に建築家をとりまく状況や問題を一つひとつ紐解く一冊。
第2回 恵比寿映像祭
2010年2月19日~28日に行なわれた第2回恵比寿映像祭のカタログ。作家や作品の一つひとつの解説、公式ウェブサイトで掲載されている鷲田清一の寄稿や、細野晴臣と藤幡正樹の対談など展覧会とまた違った面白さを感じることが出来る一冊。
2010/05/17(月)(artscape編集部)
集合住宅物語
発行所:みすず書房
発行日:2004年3月1日
千葉大学の岡田哲史研究室主催の千葉大学建築レクチュアシリーズにて、植田実氏と同席する機会があり、その機会にと思って本書を手にとった。350ページの分厚い本。全ページの半分近くが、鬼海弘雄による豊富なカラー写真。この写真の量は尋常ではない。集合住宅物語とはよくいったものだ。植田のテキストはいわゆる一般的な建築的記述から、ぐいぐいと集合住宅における生活そのものに入り込む。「歴史」ではなく「物語」として、個々の集合住宅を描き出す。だから写真も竣工時のものではない。人や生活の風景がある、生きられた集合住宅の写真である。戦前と戦後、同潤会アパートから代官山ヒルサイドテラスまで、40近くの集合住宅が、植田の目で描き直される。一般的な建築本に慣れていれば慣れているほど、建築における「生活」をあぶり出す本書の描き方は、新鮮に見える。
2010/05/13(木)(松田達)