artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
『SUR』
発行所:東京大学・都市持続再生研究センター
発行日:2010年1月20日(Special Issue 01)、3月25日(Special Issue 02)
東京大学グローバルCOEプログラム「都市空間の持続再生学の展開」における研究会や活動部会による冊子。01号では、太田浩史、阿部大輔、川添善行らによる都市計画寸法研究会の活動報告が掲載されており、後半の設計資料集成風の(もしくは多少、ヨーゼフ・シュテューベンの『都市建設』風の)都市の街路断面のカタログが情報量があって面白い。02号では、取り壊しがなされようとされている公団阿佐ヶ谷住宅をめぐる状況と、その可能性を求めるリサーチプロジェクトの検討案と提案が掲載されており、失われようとする東京の都市風景のひとつをいかに保全し取り戻すかという問題に対するケーススタディとなっている。この冊子は、販売されているものではないが、とても高いクオリティでつくられており、気になった。
2010/04/12(月)(松田達)
Andrea Deplazes『Constructing Architecture』
発行所:Birkh user
発行日:2005年
ETHの教授であり建築家であるアンドレア・デプラゼス編著による約500ページの大著。ETHやイタリア語圏スイスのメンドリシオ建築学院では、教科書としても使われているという。原理的な解説も多いが、それ以上にズントーやオルジャッティなどの具体的なプロジェクトの詳細図などを教科書的に使っているという点が興味深い。日本との建築教育では、なかなかディテール図面を見せながらの解説はしない。また、すべての構成が非常に明快である。例えば、形態は、テクトニックと空間に分類され、テクトニックは、素材、境界、構造、形状、次元に、空間は、視覚、触覚、感覚、嗅覚、時間感覚、聴覚に分類される。それぞれがさらに細分割されていく。透徹された構造と建築的思考が浮かび上がる本であり、表紙にはハンドブックとも書いてあるが、単なるハンドブックではない。ぜひ邦訳が出るべき本だと思う。
2010/04/05(月)(松田達)
岡田新一他『日本の未来をつくる──地方分権のグランドデザイン』
発行所:文藝春秋企画出版部
発行日:2009年5月30日
日本のグランドデザインを提言する本。著者は、NPO法人の「日本の未来をつくる会」のメンバーである、岡田新一、田村明、猪瀬直樹、市川宏雄、大野秀敏、神野直彦ら。なおこのNPO法人には岸田省吾、馬場璋造らも名を連ねており、建築系の人物がかなり占めている。本書では、道州制よりさらに地方自治を推し進めた完全自治州制が提示され、日本全国を八つに輪切りにすることにより、各州が日本海と太平洋に接するという領域案を岡田氏がまとめている。そして既存の横に伸びるインフラがそれらをつなぐ。現在議論されている道州制が、結局中央集権的な体制の繰り返しになることを、メンバーは危惧し、新しい地方分権案が具体的なダイアグラムとともに提示されている。建築家を加えたメンバーが、壮大な国土のグランドデザインを提言していることに注目したい。
2010/03/31(水)(松田達)
五十嵐太郎編『建築・都市ブックガイド21世紀』
発行所:彰国社
発行日:2009年4月10日
主に90年代以降に出版された、建築・都市に関する主要な本を紹介するブックガイド。編者の五十嵐太郎によれば、20世紀の建築・都市関連書物を100冊集めた『READING:1 建築の書物/都市の書物』(INAX出版、1999)と対になる本であるという。本書は20人の執筆者がおり、筆者もそのひとりに加えていただいているが、その2/3以上を五十嵐が書いている。おそらく単著としても出すことができたのであろうが、それでも足りない部分を原稿依頼したというので、本書の充実度は想像できよう。ところで、五十嵐太郎編によるこの種のアンソロジー系総括本は(過去の『20世紀建築研究』など多数)、決してある水準以上のものを取り上げるというような形式で網羅しているわけではない。何故この本がここに、何故この作品がここに入っているの? という驚きが、必ずいくつか散りばめられている。それが完璧にまとめ上げた教科書的な本との決定的な違いを生み出しているのではないか。例えば、高祖岩三郎の『流体都市を構築せよ!』、またその道では有名な森博嗣の推理小説など、一見、ほかとカテゴリーが違いそうなものも、五十嵐はフラットに取り上げる。しかし、それこそが編者としての五十嵐のオリジナリティを生み出している。だからこの本は、じっくり読んだ後に、もう一度、そういえばこの本はどうして取り上げられたのか、と考えてみる面白さも残っているのだ。
2010/03/31(水)(松田達)
内田青蔵『「間取り」で楽しむ住宅読本』
発行所:光文社
発行日:2005年1月
建築史家が、間取りを切り口として近現代の住宅史をたどる。興味深いのは、玄関、居間(この言葉が、「リビング」の訳語として初めて訳されたのは、大正時代の雑誌だった)、寝室、子供部屋、台所、便所など、住宅を構成する基本的な部位ごとに、その変遷を分析していること。言うまでもなく、それは近代社会において、いかに家族の概念が形成されたかを検証することにもつながる。われわれが当たり前だと思っている住宅=家族の姿は、せいぜい100年以内につくられたものであり、すでに大きく変容してしまった。例えば、大正時代に接客中心の客間から家族中心の居間への転換が起きたが、20世紀の半ばにテレビが侵入し、いまや居間には誰もいなくなっている。こうした歴史的なパースペクティブのなかで、山本理顕や難波和彦の住宅などが位置づけられているのも興味深い。
2010/03/31(水)(五十嵐太郎)