artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
中川道夫『上海双世紀 1979-2009』
発行所:岩波書店
発行日:2010年2月
中川道夫の写真集は、世紀をまたぐ約30年の上海の変貌を浮かびあがらせる。最初の二枚は、いずれも外灘から浦東を眺める写真だが、四半世紀の時間の流れは対岸をまったく違う世界に変えてしまった。いわゆる建築写真ではない。むしろ、それぞれの時代のまちの人々がとらえられている。匂いと音が聴こえてきそうな写真だ。ちなみに、冒頭に数枚ある21世紀はカラー、残りの前世紀の写真は白黒である。筆者がはじめて上海を訪れのは約20年前であり、当時はまだ昔の日本の映像を見るかのようなセピア色のイメージだったことをよく覚えている。だが、その後の上海はすさまじい勢いで未来都市に変貌した。今年は上海万博も開催される。もしかすると、将来は、日本が昔の中国のようだと思われるのかもしれない。
2010/03/31(水)(五十嵐太郎)
『建築雑誌3月号』
発行所:日本建築学会
発行日:2010年3月
特集の「ナイーブアーキテクチャー」が目を引く。現在、もっとも注目されている現象、すなわち繊細な空間のデザインにスポットを当てているからだ。本来、こうした企画は『10+1』や『建築文化』など、民間の雑誌が組んでいたが、いまや両者ともに存在せず、一方で老舗の『新建築』は特集主義をとらないので、結果的に『建築雑誌』がその役割を引き受けているのも興味深い。「ナイーブアーキテクチャー」は、真壁智治が提唱し、議論を巻き起こした「カワイイ」のコンセプトを発展させたかたちになっている。使い手の共感を得るためのナイーブさも、カワイイのときに提出されていた考え方だ。また、これをはっきりと日本発と打ち出しているのも、この企画の特徴だろう。日本の現代建築の動向は、ある種のマニエリスム、あるいはガラパゴス島化ともとられかねない側面をもつのだが、それを新しい建築のパラダイムとして肯定的にとらえようとしている。また私性、女性性、身体性といったキーワードも散見され、SANAA、青木淳、アトリエ・ワン、石上純也、中山英之らの(すでに)人気建築家をバックアップする特集だ。個人的に気になっているのは、カワイイの議論のとき、真壁は良い「カワイイ」(SANAA的なもの)と悪い「カワイイ」(キッチュなもの)を峻別し、前者のみを擁護していたが、こちらの方を今回、ナイーブアーキテクチャーとしてラベルを貼りかえたものと理解すれば、よいのか、ということである。
2010/03/31(水)(五十嵐太郎)
中山英之『中山英之 スケッチング』
発行所:新宿書房
発行日:2010年3月
神戸芸術工科大学デザイン教育研究センターの特別講義をもとに制作された本である。個人的に、なんとも形容しがたいかたちをもつ京都の《0邸》を見学した直後、これを手にしたこともあって、中山英之が空間のイメージを練りあげる際、スケッチが大きな役割を果たしていることを痛感させられた。ハードなラインによる建築的なドローイングではない。むろん、古典的な透視図法でもないし、コンピューターのCGでもなく、手描きのスケッチ群。繊細でデリケートな手の技を見せる「エモーショナル・ドローイング」展(国立近代美術館)などにも通じる、きわめて主観的なイメージである。そこから建築が立ちあがっていることは、スケッチ群が模型や実際の写真と等価に並べられていることからもうかがえるだろう。
2010/03/31(水)(五十嵐太郎)
『「おいしく、食べる」の科学展』
発行所:日本科学未来館
同名タイトルの展覧会のカタログ。もっとも、いわゆる本の形式ではない。旅行先の絵葉書のようなフォトカードのセットになっている。したがって、展示コンテンツの再現というよりは(一部のパネルの情報は、カードの裏面に記されているが)、基本的に若手の建築ユニットassistantが手がけた会場構成の雰囲気を、新津保建秀が撮影した写真によって伝えるものだ。展覧会では、丸太と麻紐を用いて、建築的なフレームをつくりながら、知の空間化を試みている。フォトカードを眺めると、さまざまな展示の場面が思い出されるだろう。つまり、これは空間体験としての展覧会なのである。
2010/03/31(水)(五十嵐太郎)
カタログ&ブックス│2010年03月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
対照guide
2009年10月10日(土)から2010年1月11日(月)まで川崎市岡本太郎美術館で行なわれた「対照 佐内正史の写真」のカタログ。テキストと川崎市岡本太郎美術館の周辺写真が繰り返されているもので、美術館での展示とは違う構成になっている。
日常/場違い
2009年12月16日(水)から2010年1月23日(土)まで神奈川県民ホールギャラリーで行なわれた「日常/場違い」のカタログ。載っている作品も変わっているが、カタログ自体も変わっている。4つの大きさに分けられた冊子をそれぞれ中に挟み込んで留められていたり、保存用ケースも3色の中から選べたりと、カタログだけでも楽しめる。
「'おいしく、食べる'の科学展」フォトカードセット
写真家、新津保建秀によって撮影された「'おいしく、食べる'の科学展」の会場の写真を空間・展示デザインを手がけた建築ユニット「assistant」が編集を行なったフォトカードセット。ポストカードになっているものと、裏に展示のコンテンツが掲載されているものがある。
コンセプション
演劇ユニット「チェルフィッチュ」を主宰する岡田利規の対話集。『わたしたちは無傷な別人であるのか?』の公開リハーサルにあわせて行われた、レクチャーと対談4本を収録。話者は、佐々木敦、桜井圭介、池田扶美代、ティム・エッチェル。
植物の化石 5億年の記憶
INAXギャラリーで2010年3月5日(金)から2010年5月20日(木)まで行なわれる「植物化石展/5億年の記憶」と併せて刊行されたカタログ。化石の写真、イラスト、テキストによって、さまざまな種類の植物の化石が解説されている。
2010/03/15(月)(artscape編集部)