artscapeレビュー
和田菜穂子『近代ニッポンの水まわり』
2010年06月15日号
発行所:学芸出版社
発行日:2008年9月10日
本書は、日本における居住空間の変化を水まわりの設備という視点から読みといたものである。近代は家事労働の効率化や生活の合理化をめざしたが、それがもっとも劇的にあらわれるのが、洗濯機、FRP製の浴槽、ステンレス・キッチンなど、新しいシステムの登場だ。むろん、丹下健三や池辺陽などの建築家も、1950年代に水まわりを中央に配するコア・システムを提案したが、彼らの空間的な工夫よりも、企業による製品の発明は、はるかに大きなインパクトを社会にもたらす。本書は、「台所・風呂・洗濯のデザイン半世紀」というサブタイトルがうたうように、現在われわれが当たり前のように享受している生活の原風景がいかなる経緯で誕生したかを住宅のパーツから追う。以前、筆者は大川信行氏と共著で『ビルディングタイプの解剖学』という本を出し、設備やシステムの視点から、病院や監獄、工場や倉庫などの諸施設の近代化を読みといた。『近代ニッポンの水まわり』も、住宅というジャンルをベースに建築を解剖しながら、近代化を分析したものといえよう。なお、本書の最終章では、電機洗濯機など、水まわりの製品の広告を分析しているが、主婦のイメージやキャッチコピーを通じて、社会の世相が浮かびあがるのも興味深い。
2010/05/31(月)(五十嵐太郎)