artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

高野山の名宝──高野山開創1200年記念

会期:2014/10/11~2014/12/07

サントリー美術館[東京都]

弘法大師空海が開いた日本仏教の聖地・高野山が2015年に開創1200年を迎えることを記念して、高野山に伝わる仏像・仏画を一堂に展示する展覧会。第1章は「大師の生涯と高野山」。空海の遺品や高野山開創に関わる宝物が紹介される。第2章は「高野山の密教諸尊」。運慶作《八大童子像》(国宝)全躯の展示や快慶作《孔雀明王坐像》(重文)などの彫刻類は本展の最大の目玉。第3章は「多様な信仰と宝物」。あらゆる階層の人々から信仰された高野山には、多彩な美術工芸品が寄進され、また多様な仏教美術を生み出していった。ここではそうした工芸品、仏像などが紹介されている。出品されている仏像のほとんどが露出展示されており、サントリー美術館の優れた照明のもとで、その美しい造形を至近距離から鑑賞可能。[新川徳彦]


展示風景

2014/10/10(金)(SYNK)

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THE NIPPON POSTERS

会期:2014/10/09~2014/12/20

dddギャラリー[京都府]

大阪・南堀江にあったdddギャラリーが、京都・太秦のDNP京都工場内に移転。その第1弾として開催されたのが本展だ。内容は、「日本の伝統美」という視点で戦後日本のグラフィック・デザイン史をたどるもの。年代別に6つの章が立てられ、幅広い世代のポスター約130点が展示された。昭和から平成に至る巨匠たちの競演はガラコンサートのように華やかで、新ギャラリーの門出を祝うのにふさわしい企画展であった。なお、ギャラリーの隣には「京都太秦文化遺産ギャラリー」も新設されており、フランスのルーヴル美術館や京都の社寺で行なわれている文化遺産の収録・保存事業の一端を垣間見られる。また、工場内に移転した立地を生かし、今後はワークショップなどの教育普及プログラムにも力を入れていくという。立地こそ市内中心部から離れているが、地下鉄東西線「太秦天神川駅」から徒歩すぐの距離なので、さほどハンデにはならないだろう。dddギャラリーの活躍に期待する。

2014/10/09(木)(小吹隆文)

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松本瑠樹コレクション「ユートピアを求めて──ポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム」

会期:2014/09/30~2014/11/24

世田谷美術館[東京都]

DCブランド「BA-TSU」の創業者・デザイナーの松本瑠樹氏(1946-2012)が蒐集したポスター・コレクションから、20世紀初頭に現われたロシア・アヴァンギャルドのポスター約180点を紹介する展覧会。展示は三つの章で構成されている。第1章は「帝政ロシアの黄昏から十月革命まで」。革命前のヨーロッパとロシアにおけるポスターデザインの交流によって生まれた作品や、革命時、閉鎖された商店の窓に貼られた「ロスタの窓」というポスター(というよりも、絵入り壁新聞に近い)が紹介される。第2章は「ネップとロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」。ソビエト政府は識字率が低い国民を教育する手段として映画産業を国有化し、映画の制作に乗り出す。そうした映画を宣伝するためのポスターを手がけたステンベルク兄弟らデザイナーたちの仕事が紹介されている。第3章は「第一次五カ年計画と政治ポスター」。1929年に採択された第一次五カ年計画の政治ポスターに顕著なのはフォトモンタージュ技法である。背景には写真印刷技術の発達もあるだろうが、空想ではないリアルな未来像を人々に見せるというポスターの意図が見える。1930年代になるとすべての政治ポスターが共産党中央委員会の指導下にある出版所から発行されるようになり、ロシア・アヴァンギャルドの夢見たユートピアは潰え、社会主義リアリズムの時代となる。
 本展のメインは第2章の映画ポスターである。そのラインナップを見ていて興味深いのは、そこにたくさんのアメリカ映画が含まれていることである。全体の三分の一が外国映画のポスターだ。ソビエト政府は自ら映画の制作を行なっていたものの、国産の映画だけでは需要を満たせなかったために海外から多数の娯楽映画が輸入され、各地で上映された。デザイナーたちはどちらのポスターも手がけており、ソビエト製の映画であっても海外の映画であっても、デザインの様式には違いが感じられない。内容によってモチーフは違っていても、いずれも「ロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター」なのだ。この様式はけっして革命プロパガンダのためだけの様式ではない。じっさい、これらのポスターはその政治的な背景とは関わりなく人々を魅了してきた。1930年に日本でソビエト映画ポスターの展覧会を開いたロシア文学者・袋一平はそのご子息の言葉によれば「生涯をソビエトに対する政治的な関心やコミットメントもなくロシアと付き合った」★1という。本展に出品されているポスターを蒐集された松本瑠樹氏もまた同様だったようだ。ご子息のルキ氏によれば瑠樹氏は表現に魅了されたのであり、ソビエトポスターの蒐集は共産主義へのシンパシーによるものではないという。たしかに瑠樹氏のポスター・コレクションはフランスのポスター画家・カッサンドルの作品から始まり、アメリカ、フランス、ドイツ、日本など多岐にわたっており、ソビエトのポスターはその一部に過ぎない。逆にいえば革命期に花開いた前衛のポスター芸術は、同時代においてはその革新性ゆえに国境を越えて注目され、また現代においてはポスターの持つ普遍的な力の象徴として、人々を魅了し続けているのだろう。[新川徳彦]

★1──岡田秀則「旅の終わり──袋一平とソビエト映画ポスター」『ロシア・アヴァンギャルドの映画ポスター──東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵 無声時代ソビエト映画ポスター《袋一平コレクション》』展覧会図録(2009)6頁。

2014/10/05(日)(SYNK)

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こども展──名画にみるこどもと画家の絆

会期:2014/07/19~2014/10/13

大阪市立美術館[大阪府]

鑑賞後、幸せな気分になる展覧会はそれほど多くないけれども、本展はその稀有な例。フランスのオランジュリー美術館で開催された展覧会を再構成し、19-20世紀に活躍した47人の画家たちの「子ども」をモデルにした作品86点を集めたもの。近代絵画の巨匠たちの日本初公開の作品が多いのも見どころのひとつ。「序章」ではおもに新古典主義の画家たち、「第1章:家族」では家族の絆をテーマとした作品、「第2章:模範的な子どもたち」では成長過程にある子どもの多様な姿を捉えた作品を扱い、「第3章:印象派」「第4章:ポスト印象派とナビ派」「第5章:フォーヴィスムとキュビスム」「第6章:20世紀のレアリスト」では、それぞれの前衛運動の主要な画家たちの作品群を見ることができる。作家とモデルの間の親密な空気、描かれた子どもたちのこちらを見返す無邪気でいきいきとした個性溢れる眼差しに強く魅了される。画家のモデル/子どもに対する愛情・温かい視線がダイレクトに伝わり、多くの鑑賞者にほほ笑みをもたらしていた。[竹内有子]

2014/10/04(土)(SYNK)

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村野藤吾──やわらかな建築とインテリア

会期:2014/09/03~2014/10/13

大阪歴史博物館[大阪府]

大阪を拠点に活躍した建築家・村野藤吾(1891-1984)の作品と人物の魅力を、家具・設計図・建築部材・彼の愛用品・建築のパネル展示等、およそ200点を通じて紹介した展覧会。今年は村野の没後30年にあたる。本展を通覧すると、その活動期間の長さを考えてもなお、とりわけ関西の都市街にいかに村野建築が多く貢献を成したか改めて実感される。同時に、当時の潮流「モダニズム」から一歩離れ、独自の創造的世界を追求した村野の姿が描かれる。それは、主要な百貨店やホテルの商業・宿泊施設等の内装・細部の仕事に顕著に見られるだろう。展示された実物や写真、例えば階段手すりの波打つカーヴや星をちりばめた天井等、その繊細でいて幻想的な芸術的効果は観者の感覚に強く訴えかける。本展でもっとも際立っていたのは、家具デザインの品々。喫茶《心斎橋プランタン》の椅子や衝立の柔らかな曲線と華奢な形、さまざまな材質を組み合わせて用いる面白さと彼の仕事の徹底ぶりには、強く魅入られた。そのほかの椅子群、傘立てや照明器具も多様性に満ちて興味深く、村野の人となりまで感じられるようだった。[竹内有子]

2014/10/04(土)(SYNK)

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