artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

グラフィックトライアル2014──響。ひびき

会期:2014/06/07~2014/08/24

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

今年で9回目のグラフィックトライアル。解説によれば今年のテーマ「響」は「音や声が空気に乗って伝わること」「音が響くように作用が及ぶこと」だという。参加デザイナーは、浅葉克己、水野学、長嶋りかこ、南雲暁彦らの四氏。グラフィックデザイン界の重鎮・浅葉克己のトライアルは、NASAの探査機が高解像度カメラで撮影した火星の地表と自らの書を組み合わせたグラフィック。墨絵のようなモノクロームの写真と薄墨を滲ませたロゴ表現に銀を用いることで、階調豊かなモノトーンの表現を実現している。水野学は「平和の響き」を青い空と白い鳩とで表現。濁りのない透明感ある青空の表現を試行した結果、空は版を重ねるよりもシアン版1版のみを特色に変えて刷った表現が一番良かったという話は面白い。他にフィルムやデジタルで撮った写真の印刷再現性を試みている。長嶋りかこのトライアルは、黒の質感表現。鉛筆、絵の具、マーカー、ボールペンなど、素材によって異なる黒のマテリアル感を出すために、今回のトライアルのなかでは一番多くの版を重ねている。フォトグラファー南雲暁彦のトライアルは風景写真。ただしオリジナルのプリントを再現するのではなく、フォトグラファーが撮影現場で感じた色につくり込むことを目指す。プリンティング・ディレクターは現場を見ていないので、フォトグラファーの意図を解釈しながら、版を設計してゆくことになる。「響」という言葉は今回のトライアルのためのテーマである同時に、デザイナー、フォトグラファーの表現とプリンティング・ディレクターの技術との響き合いでもあるという印象を受けた。[新川徳彦]

2014/08/24(日)(SYNK)

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魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展

会期:2014/06/18~2014/09/01

国立新美術館 企画展示室1E[東京都]

16年前のセゾン美術館「ディアギレフのバレエ・リュス」は、ピカソ、マチス、キリコらが参加した舞台美術を豊富に紹介し、総合芸術色が強かったが、今回は多数のマネキンを使い、衣装がメイン。全体として異国趣味を感じる民族系が多い。続いて、同館のオルセー美術館展へ。あまり予想外のものはなく、教科書的にフランスの近代を振り返る内容である。後から振り返る歴史としては、当然印象派の系列が名前を残しているが、逆に当時の主流だったアカデミズムの絵画などを、同じ部屋で一緒に見せるのは、比較することで、表現の違いを学ぶうえでわかりやすい。

2014/08/23(土)(五十嵐太郎)

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IMARI/伊万里──ヨーロッパの宮殿を飾った日本磁器

会期:2014/08/16~2014/11/30

大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]

大阪市立東洋陶磁美術館所蔵で今回初公開となるコレクションに、サントリー美術館、九州陶磁文化館の所蔵品を加え、1660年から1757年まで約100年にわたった輸出伊万里の歴史を辿る展覧会である。すでに最初の巡回先であるサントリー美術館での展示を見ているので、ここでは展示構成のおもな違いについて触れる。この時期の伊万里焼は、国内向けと輸出向けの製品で、種類や意匠も異なっていた。東洋陶磁美術館の伊万里焼コレクションはヨーロッパで蒐集されたいわゆる「里帰り品」であり、ヨーロッパ向けの製品。それをふまえてヨーロッパにおける受容のコンテクストをより強調する構成になっている。具体的には、おもにヨーロッパ向けに生産された大壺の数々が最初の展示室に集められていること。また展示デザインにはヨーロッパ人にとって奢侈品であった東洋磁器をイメージさせる工夫が施されている。エントランスから階段を登り展示室に入るまでの床には赤い絨毯が敷かれ、展示室の入口は重厚なカーテンで飾られている。入ってすぐの壁には、本展を担当した小林仁・東洋陶磁美術館学芸員が撮影した磁器の間のある宮殿・美術館の写真がデコラティブな金縁の額に入れられて展示されている。大壺の大部分は壁面のケースに展示されているが、裏側の意匠も見えるように背後に大きな鏡が設置されている。そしてその鏡もまた額縁付(美容院で用いられるものらしい)。こんな展示は初めて見た。展示ケースの壁面にはヨーロッパ調の濃い色彩の壁紙が貼られているが、その文様はオリジナルという凝りようである。とくに印象に残る作品は《染付高蒔絵牡丹唐獅子文大壺・広口大瓶》。伊万里の染付磁器に長崎で高蒔絵を施した大壺である。もうひとつは《染付蒔絵鳥籠装飾付広口大瓶》。やはり染付に高蒔絵を施し、さらに鳥籠状の装飾が付され、中には木製の鳥が2匹おかれている。明治期の宮川香山の作品を思い出させる奇妙な装飾であるが、マイセン窯でも本作の写しがつくられたということは、ヨーロッパ人好みの意匠だったのだろう。後者は展示室中央の独立ケースに展示されているが、ケースのガラスにカッティングシートで楕円形の窓があけられていて、そこから覗き込む。チラシや図録表紙のデザインを模しているのだ。撮影コーナーにもなっている最後の展示スペースには、ドイツ・シャルロッテンブルク宮殿の図面を背景に大壺3点の露出展示があり、またその隣では同宮殿の磁器の間の写真をバックに記念撮影ができるようになっている。現地に旅した気分になれるかといえば微妙だが、これまたデコラティブなソファに座って写真を撮るとなかなかいい雰囲気だ。それ以外の展示は他館の展示と同様に時系列となっているが、陶磁器専門の美術館の展示ケースと自然光を再現したLED照明の下では、作品はまた違って見える。ポスターやチラシ、展覧会図録、会場デザインはすべて上田英司氏(シルシ)。図録の作品写真撮影は三好和義氏(東洋陶磁美術館所蔵品のみ)。図録の大胆なレイアウトは一見の価値がある。[新川徳彦]


左=展示室入口
右=第一展示室


撮影コーナー


本展図録の一部

関連レビュー

IMARI/伊万里──ヨーロッパの宮殿を飾った日本磁器:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape

2014/08/20(水)(SYNK)

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プレビュー:イメージの力──国立民族学博物館コレクションにさぐる

会期:2014/09/11~2014/12/09

国立民族学博物館[大阪府]

みんぱくの常設展は世界各地から蒐集された人々の生活具、宗教的イメージなどのコレクションを基本的に地域で分けて展示している。それは、それぞれの地域の人々の暮らしと文化の結びつきをわかりやすく伝える方法のひとつである。他方で世界各地の文化の多くはそれぞれが独自に生まれたものではなく、民族の移動や交易などを通じて相互に交流し発達してきたものでもある。常設展では音楽と言語について、このような地理的な枠組みを超えた関係を解説している。それでは、視覚的イメージの異同についてはどうなのか。世界各地の人々がつくり出してきたイメージに、人類の普遍性というものを見出すことはできるのだろうか。「イメージの力」展は、みんぱくのコレクション約600点によってこの課題を考えるという企画。国立新美術館での展示(2014/2/19~6/9)では、天井の高いホワイトキューブに陳列されたさまざまな造形物に圧倒された。みんぱくの企画展示場は国立新美術館とは雰囲気が異なるので、その見せ方の違いも気になるところである。本展のポスターやチラシのデザインは非常にニュートラルで、おそらくそれはすべてのオブジェを等価に扱ったときに見えてくるものを企図していると思われるが、やや地味に過ぎるように思う。国立新美術館では実際に展示を見たときに、ポスターから受けた静的なイメージと展示品から発せられる熱気とのギャップに驚かされた覚えがある。[新川徳彦]

2014/08/19(火)(SYNK)

IMARI/伊万里──ヨーロッパの宮殿を飾った日本磁器

会期:2014/08/16~2014/11/30

大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]

17世紀初頭に佐賀県有田町で創始された日本最初の磁器「伊万里焼」は、オランダ連合東インド会社を通じた海外輸出により大きく発展する。本展は、西欧各地の裕福な人々のあいだで愛でられた「輸出用伊万里」を中心として、中国・景徳鎮で伊万里焼を模倣した「チャイニーズ・イマリ」、オランダのデルフトで伊万里に倣って制作された焼物等、約190点を見ることができる。なんといっても圧巻なのは冒頭に展示されている、王侯貴族の壮麗な宮殿を飾るにふさわしい、高さが90センチもある大型の壺や大瓶。日本の風俗・風景・花鳥を描いた模様図、金襴手の豪華な様式、入念な凝った装飾には、目を瞠らされる。出品作の大壺には、染付に蒔絵(この部分は釉薬をかけずに焼成)を組み合わせて構成し、蓋のつまみ部分には木製の獅子が置かれる、といったように非常に豪華絢爛な美術工芸品がいくつもある。ヨーロッパの人々の熱狂的な伊万里の愛好と、その需要に創意で応えようとした日本の陶工の奮闘努力に思いを馳せ、深く感じ入った。[竹内有子]

2014/08/19(火)(SYNK)

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