artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
鎌倉ゆかりの天神さま──荏柄天神社宝物と常盤山文庫コレクション
会期:2014/10/18~2014/12/14
鎌倉国宝館[神奈川県]
松濤美術館の「天神万華鏡」を見た折に、鎌倉国宝館でも天神様の展覧会が開催されていることを知った。たまたま同時期の開催となったとのことであるが、作品の出所は同じ常盤山文庫コレクション。ついでにいうと、図録序文の執筆者も同じく島尾新・学習院大学教授である。松濤美術館との大きな違いは鎌倉での天神様を奉る荏柄天神社の宝物が出ている点。由来によれば、荏柄天神社は1104(長治1)年が起源であり、その歴史は鎌倉幕府よりも古く、東国における天神信仰伝播の中心であったという。本展には荏柄天神社の天神座像や立像、束帯天神像、刷物が出品されている。また図録には荏柄天神社に関する記述があるほか、天神様が中国に渡って禅の名僧・無準師範から袈裟を授かったという伝説を元にして描かれた「渡唐天神」について島尾先生がさらに詳しく解説しているところが松濤と異なる点であろうか。常盤山文庫から出品されている束帯天神像、渡唐天神像、浮世絵には両館の展示品で共通あるいは類似のものが多くあるということをみると、天神コレクションを形成した鉄道技師・菅原恒覧の徹底した蒐集、マニアぶりがうかがわれる。[新川徳彦]
関連レビュー
2014/12/14(日)(SYNK)
棟方志功と芹沢銈介──ふたつの「釈迦十大弟子」を中心に
会期:2014/09/06~2014/12/16
大阪日本民芸館[大阪府]
民藝運動に共に参加した版画家・棟方志功と染織家・芹沢銈介によってそれぞれ制作された、「二菩薩釈迦十大弟子」と「釈迦十大弟子尊像」をおもに紹介した展覧会。ふたりの作品約百点のほか、併設展示では濱田庄司や河井寛次郎ら民藝運動の作家たちの作品やばんどり等の編組品も見ることができる。見どころは、棟方と芹沢の同じテーマを扱った「釈迦十大弟子像」(釈迦の優れた弟子たち10人の像で大きさは1メートル近くある)が並べて展示されていること。棟方は、木版画の素材自体の存在感を感じさせる、版木の枠にぎゅっと押し込められたような緊張感と、力強い彫りの線・絶妙なバランスの白と黒の配置でなされるダイナミックな画面に加えて、弟子それぞれの異なるポーズと表情から個性と精神性を見事に表現している。それに対し、芹沢は型染絵の技法によって、柔らかで繊細な描線でもって、弟子たちの内面性を浮き彫りにしている。台座もある立像は、彼が研究したであろう奈良時代の興福寺の彫刻、十大弟子立像を想起させる。なかなか並置される機会のないふたりの大作の対照性が、たいへん興味深かった。[竹内有子]
2014/12/13(土)(SYNK)
土木デザイン競技 景観開花。─集う─公開最終審査会
会期:2013/12/13
東北大学青葉山キャンパス[宮城県]
土木系のアイデアコンペである景観開花の最終審査に参加する。今年は絶対の一推しがなく、最優秀なしもありと思ったが、バランスよりもデザインの可能性という指標だけで票をいれた鈴木翼の浜松駅前プロジェクトが1位になった。今年の傾向としては、「集う」というテーマに対し、具体的な人間の対象を想定せず、数さえ増えれば良いという案ばかりだったのが惜しい。審査後のトークでは、西村浩×木下斉が面白い内容だった。ともに街づくりの専門だが、木下は補助金頼りの地方事業を疑問視し、西村は小さくてもできるところからという指針を提唱する。金沢の「3.11以降の建築」展と完全にリンクしていた。
2014/12/13(土)(五十嵐太郎)
銅版画家 清原啓子の宇宙
会期:2014/11/30~2014/12/14
八王子市夢美術館[東京都]
1987年に31歳で亡くなった銅版画家・清原啓子(1955-1987)。その作品集
の刊行に合わせて八王子市夢美術館で展覧会が開催された。作品集に収録されているのは彼女が版画家として活動した10年間に残した30点の作品(未完成作を含む)、詩、素描(下絵)であるが、展覧会ではそれらに加えて試刷、制作ノート、原版、そして彼女の蔵書が入った書棚が出品された。「久生十蘭、埴谷雄高、三島由紀夫など神秘的、耽美的な傾向の文学を愛し、その『物語性』にこだわった精緻で眩惑的な作品」と紹介文にあるとおり、画面一杯に描き込まれた植物、生物、建築、異形の人々などの幻想的なテーマと、扱われたモチーフ、そして彼女が選んだ技法とその技巧に驚嘆する。鉛筆によって描かれた下絵のディテールと精度にも驚くばかりだ。一つひとつの作品に掛けられたエネルギーにも圧倒される。しかも清原は作品を発表した後でもしばしば作品に手を入れ続けていたという。《魔都霧譚》(1987)については制作過程がわかる20枚の試刷とそれぞれについて記した制作ノートのコピーが示されている。未完成の作品もまた彼女の創作過程を示すものであり、とても興味深く見た。2週間の会期は短い。気になりながら見逃してしまった人も多かったのではないだろうか。[新川徳彦]2014/12/10(水)(SYNK)
天神万華鏡──常盤山文庫所蔵 天神コレクションより
会期:2014/12/09~2015/01/25
渋谷区立松濤美術館[東京都]
学問の神様として知られる菅原道真(845-903)、すなわち天神様は、古来よりさまざまな姿で絵画、版画に描かれてきた。「天神万華鏡展」は、多面的な姿、万華鏡のような存在としての天神の変遷をたどる企画。基本的なその姿は貴族の正装である束帯。神となってからも生前の道真の姿で描かれている。背景には伝説に因んで梅や松が描かれ、道真が詠んだとされる和歌や漢詩が配される。顔や表情はさまざまで、そこだけを見ると同一の人物には見えないが、ともに描かれた小道具によって天神であることがわかる。「渡唐天神」と呼ばれる立ち姿を描いた一連の絵画は、天神様が中国に渡り禅の名僧・無準師範から袈裟を授けられたという伝説に基づくもの。無準は南宋時代(1127-1279)の人で事実としてはありえないのだが、室町時代に画像と逸話が伝わって流布したという。道服を着用し頭巾を被り袈裟袋を下げ、顔は唐人風。梅の枝を持っていることで天神とわかる。江戸時代には『菅原伝授手習鑑』の舞台、役者絵を通じて道真の姿が流布し、また亀戸天満宮や湯島天満宮はたびたび浮世絵に描かれており、天神様が人々に身近な存在であったことを物語る。
今回の展覧会は常盤山文庫が所蔵する天神コレクションからの出品である。常盤山文庫は実業家・菅原通済(1894-1981)が昭和18年に創設した書画骨董のコレクションで、天神様を集めたのは通済の父・菅原恒覧(1859-1940)である。恒覧は工部大学校に学んだ鉄道技師で、鉄道工業株式会社の創設者。余部橋梁や丹那トンネルの建設を請け負ったことで知られている。真偽の程は定かではないが菅原道真の35代目の子孫と伝えられており、晩年には道真・天神関連のさまざまな文書、絵画を蒐集し、1929(昭和4)年には『菅公御伝記』という本も出版している。本展図録に序文を寄せられた島尾新・学習院大学教授によれば、恒覧が収集した絵が収められた箱の蓋には分類や所蔵番号のほかに評価を表す「松」「竹」「梅」の印が押されているが、ふつうと違って「梅」が最上位であり、次が「松」、「竹」が最下位となっているのだという。そうしたコレクターの視点を意識しながら見るのもまた楽しい。なお、来館者には「学業応援企画」として鉛筆セットを配布している(なくなり次第終了とのこと)。[新川徳彦]
関連レビュー
2014/12/08(月)(SYNK)