artscapeレビュー

The Search 2 Feel the Paper

2011年10月01日号

会期:2011/07/11~2011/08/12

見本帖本店[東京都]

花束のためのパッケージ(柿弓子)、山を描き、記録するためのノート(鯉沼恵一)、小さな四角いドットをくり抜いてオリジナルの模様をつくることができるポチ袋(甲田さやか)、紙の破れを楽しむカレンダー(小玉文)、イニシャルの入った紙の小箱(小比類巻蘭)、革細工のような立体感のあるしおり(佐々木未来)、組み立て式の照明器具(下田健斗)、エンボス加工と箔を用いて表現した昆虫がプリントされたレターセット(徳田祐子)、紙の厚みとざらつきを生かし、めくる楽しさを内包した絵本(中村聡)。9人の若手デザイナーたちが、紙、印刷、加工技術を用いて新しい表現を試みる。
 デザイナーの感性を技術や素材によってサポートする試みとしては、凸版印刷のグラフィックトライアルとも似ているが、グラフィックトライアルに参加するデザイナーが第一線で活躍するベテランであるのに対して、こちらは若手デザイナーが対象である。そして、グラフィックトライアルが技術的な制約を超えた新たな可能性を目指しているのに対して、ここでは技術の可能性と制約の双方を知ることに目的があるようだ。制約の最大のものはコストのようで、制作をサポートした技術者のコメントのなかでも、その部分が印象に残った。紙の加工には製品ごとに型が必要であり、複雑なパターンや種類の増加は、そのままコストに反映するのだ。この企画自体にも予算的な制約があったようだが、現実的な商品をつくることを考えれば、コストによる制約は避けて通ることができない問題である。
 チャールズ・イームズは、デザインにおける問題解決にあたって「デザイナーは出来る限り多くの制約を認識する能力を備えるべきだし、それらの制約に喜んで、また熱意をもって当たる」べきであると述べている。すなわち、デザインの評価にとっては、問題解決の程度ばかりではなく、デザイナーが制約にどのように取り組んだのかも重要な要素となる。デザイン展の多くが結果としての作品を見る場であるのに対して、ここでは発想の段階から素材や技術の選択、問題とその解決まで、制作過程のすべてが記録されている。デザイナーにとってはもちろんのこと、制作をサポートする側にとっても、デザインを消費する側にとってもその意義は大きい。[新川徳彦]

2011/08/09(火)(SYNK)

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