2020年07月01日号
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artscapeレビュー

皇帝の愛したガラス

2011年09月01日号

会期:2011/07/14~2011/09/25

東京都庭園美術館[東京都]

エルミタージュ美術館に収蔵されているヨーロッパ・ガラス工芸の優品190点を展示する。コレクションは15世紀ヴェネツィアの作品から始まり、ボヘミア、イギリス、スペイン、フランス、ロシアなど各地の製品を網羅し、ヨーロッパにおけるガラス工芸の歴史を俯瞰する構成になっている。ヴェネツィアやフランスのガラス工芸を見る機会は多いが、今回の展覧会ではロシア帝室ガラス工場(1777年創設、1792年国有化)の作品を含め、これまで日本では体系的に紹介されることがなかったロシアのガラス芸術を見ることができる。充実したコレクションであり、サントリー美術館の「あこがれのヴェネチア・グラス」展(2011年8月10日~10月10日)と併せて見ると、ヨーロッパにおけるガラス工芸の発展をより深く知ることができると思う。
 実用的な形態をもつ出品作がほとんどのなかで、異彩を放っていたのはガラスのモザイク画である。19世紀初頭のミラノと、1820~30年代にロシアで制作された作品が出品されているが、とくにミラノのものは、油彩画と見間違えるほどの表現を微小なガラス片の組み合わせによってつくりあげた驚異的な作品である。
ロシアの王族や貴族たちは古くからヨーロッパのガラス工芸を収集してきたが、エルミタージュ美術館にガラス工芸が収蔵されるようになったのはようやく19世紀後半になってからのことだ。その後ロシア革命によって貴族たちの旧蔵品がエルミタージュに集められた一方で、新しい作品のコレクションは一時的に停止。ガレやドームなど20世紀初頭におけるガラス工芸のコレクションが充実したのは、1970年代以降のことだという。このような背景を考えると、コレクションは作品が生み出された時代の価値観によってではなく、後代の芸術観を基盤に形成されたと考えてよいのであろうか。
 東京都庭園美術館は、この展覧会のあと建物公開(東京都庭園美術館建物公開「アール・デコの館」、2011年10月6日~10月31日)を経て11月から長期改修工事に入る。旧朝香宮邸を転用したこの美術館は小さな展示室が多く、混雑しているときには作品を見づらいこともあったが、今回のガラス工芸のように展示作品によってはアール・デコ様式の内装が他の美術館にはないすばらしい効果を発揮していた。改修の詳細は未定とのことであるが、リニューアル後も引き続きこの場所で優れた工芸品を見ることができれば嬉しい。[新川徳彦]

2011/08/11(木)(SYNK)

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