artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

恐怖分子

エドワード・ヤン監督の映画『恐怖分子』を見る。観客を馬鹿にしたような説明的な台詞も、煽動的な音楽もなく、映画とは、そもそも視覚と「音」による表現なのだ、という当たり前のはずのメディア的な特質の悦びを体験できる。それにしても、寂しげなインテリアの空間の美しいこと。窓辺のシーンも素晴らしい。映画が終わった後にも、作品全体を貫く、静かな不穏さが持続する作品だ。

2015/04/06(月)(五十嵐太郎)

暗殺教室

映画『暗殺教室』はあまり期待せずに鑑賞したら、十分に合格点の内容だった。漫画は最初の方しか読んでいないので、途中から原作との照合はできていないが、無理に完結させなかったのがいい。もともと漫画でも、絵的にリアリティのレベルが違う不条理な存在として、殺せんせーは登場していたので、よくできたCGの微妙な違和感がちょうどいい。また、二宮和也の声優ぶりもよかった。

2015/04/01(水)(五十嵐太郎)

ジュピター

ウォシャウスキー姉弟による『ジュピター』は、ある意味で、あまりにも残念すぎて、スゴイかもしれない。実は人類が支配されている、現世では平凡な主人公が世界を救う英雄だったなど、中二病的な陰謀史観は、彼らの傑作『マトリックス』と一部共通しているが、全体としては最新の技術で大昔のSFを見ているようだ。映画美術として中世風の建築は食傷気味だが、フランク・O・ゲーリーの建築群をコラージュした都市風景は笑える。

2015/04/01(水)(五十嵐太郎)

ルック・オブ・サイレンス

ドキュメンタリー映画『ルック・オブ・サイレンス』の試写会へ。インドネシアの大虐殺を、加害者による再演という驚くべき手法で撮影した『アクト・オブ・キリング』と同じ監督が、今度は被害者側の視点を入れて制作したもので、対として見るべき作品だった。こちらは狂気の笑いの要素は少なく、むしろ重い。同時に人々がイデオロギーやプロパガンダでいとも簡単に煽動され、罪悪感や後悔を感じないまま、「国家」のために、究極の排除=殺人に向かう姿を描くわけだが、前作よりも本作のほうが、日本と重ね合わせて見えてしまう。共産主義者を殺せは、非国民や外国人にもなりうるだろう。

2015/03/27(金)(五十嵐太郎)

だれも知らない建築のはなし: Inside Architecture -A Challenge to Japanese Society-

ヴェネツィアビエンナーレ国際建築展2014を契機に制作された石山友美監督のドキュメント『だれも知らない建築のはなし』の試写会へ。その内容は、大阪万博後の1970年代、ポストモダンの興隆、熊本アートポリスのプロジェクト、バブル後と現在の構成となっている。日本の現代建築史を磯崎新、伊東豊雄、安藤忠雄、レム・コールハース、ピーター・アイゼンマン、チャールズ・ジェンクス、二川由夫らが語る。ポイントのひとつが、建築家と社会の関わりという意味では、金沢21世紀美術館の「3.11以後の建築」展へのイントロとしても鑑賞可能だろう。個人的には海外からの日本へのまなざしや異文化のディスコミュニケーション、そして1980年代バブルの日本がもっていた熱いエネルギーが面白かった。また磯崎が早い時期に、伊東、安藤の二名を高く評価していた目利きぶりにも改めて感心させられるし、ある程度、建築をすでに知っている人はかなり楽しめる。ドキュメント映画として、ハードルを下げる妥協をせず、初心者はわからない固有名詞が多いかもしれないが、多くの人がこれを見て、是非80年代に興味をもってほしい。

2015/03/26(木)(五十嵐太郎)