artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

瀬戸内国際芸術祭 2010

会期:2010/07/19~2010/10/31

瀬戸内海の7つの島と高松港[香川県、岡山県]

注目のアートイベントにさっそく足を運んだ。2日間フル稼働で取材したが、女木島、男木島、小豆島、豊島と高松港を回るのが精一杯。直島、犬島、大島は後日に持ち越しとなった。すべての会場を巡るには1週間ぐらい必要だろう。真夏の瀬戸内は高温多湿で日差しがきついため体力的にはハードだったが、精神的にはとても充実した2日間だった。瀬戸内と聞くとつい海ばかりを連想してしまうが、実際は海岸部だけでなく、内陸部でも数多くの展示が行われていた。地域の自然、生活、文化、習俗とアートが密接に交流し、美術館やギャラリーでは味わえない広がりのあるアート体験ができた。1回目から完成度の高いイベントに仕上げてきた関係者に賛辞を送りたい。今後もさらに充実を図り、越後妻有と並んで日本を代表する地域密着型アートイベントとなることを期待する。なお、筆者のおすすめは、小豆島の王文志と岸本真之、女木島のロルフ・ユリアス、男木島の中西中井、豊島のキャメロン・ロビンスとジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーだ。

2010/07/18(日)・19(月)(小吹隆文)

artscapeレビュー /relation/e_00009790.json s 1217789

HEAVEN 都築響一と巡る社会の窓から見たニッポン

会期:2010/05/22~2010/07/19

広島市現代美術館[広島県]

編集者で写真家の都築響一の展覧会。『TOKYO STYLE』をはじめ、『ROADSIDE JAPAN─日本珍紀行』『巡礼~珍日本超老伝~』など、これまでの都築の活動を一挙に振り返る構成で、ちょうど一冊のスクラップブックのように編集された展覧会は、混沌としていてじつに楽しい。じっさい、出品された作品の大半は写真だったが、それらを解説する短いテキストが添えられていたから、観覧者はおのずと写真を「見る」というより、「読む」ように仕向けられていた。かつて井上雄彦が美術館を丸ごと漫画に見立てたように、おそらく都築は美術館を一冊の雑誌に仕立て上げようとしたのだろう。じっくり読み進めていくと、なるほど奇妙な物体や奇人の視覚的なインパクトを楽しむだけでなく、それらの背景にひそむ物語の一端を垣間見ることはできる。とはいえその一方で、それらの情報はあくまでも水平的であり、ある一定の水準以上に深まっていくことはないのも事実だ。秘宝館のエロティックなインスタレーションを制作した作り手の姿は展示から見えてこないし、今回の展覧会を象徴するイメージとして採用された広島在住のホームレス、広島太郎にしても、突っ込みが甘いといわざるをえない。公立美術館で発表することのさまざまな制約を差し引いたとしても、得体の知れない人や物を発見して、それらを世間に伝えたいという「熱」がさほど強く感じられなかったのは、いったいどういうことなのだろうか。すでにある程度のキャリアを積んでいる都築が、いつのまにか「型」に収まってしまったということなのか、それともそうした「熱」を必然的に冷ましてしまう美術館という文化装置に由来しているのか。正確なところは知るよしもないが、その「熱」を浴びたことのある読者としては「もっと見たい、もっと見せろ、もっとやれ!」と思わずにはいられない。

2010/07/09(金)(福住廉)

artscapeレビュー /relation/e_00009339.json s 1217782

Trouble in Paradise 生存のエシックス

会期:2010/07/09~2010/08/22

京都国立近代美術館[京都府]

京都市立芸術大学の創立130周年記念事業に協賛して開催された企画展。アートと生命、医療、環境、宇宙などの諸学問が交流する12のプロジェクトを通して、脱領域的な表現(=未来の芸術?)の可能性を問うた。実際、展示物を見ると、光と音の変化が脳の血流に与え、その数値がフィードバックして光と音が変化していくシステムや、二重軸回転する巨大な円盤で身体の感覚を撹乱する装置、切り立った山脈のようなインスタレーション、JAXAとの協働で無重力空間における庭のあり方を探ったプロジェクトなど、およそ美術展らしくない造形物が並んでいる。同時に、多数の講演会、シンポジウム、ワークショップなどが組まれており、展示と同等の比重がかけられているのも本展の特徴である。こういう挑戦心に満ちた企画は、画廊ビジネスでは不可能だし、アートセンターの手にも余る。まさに美術館以外では行なえない先進的な挑戦として評価されるべきであろう。正直に言うと若干アカデミズム臭が気になったのだが、それは筆者の偏見かもしれない。

2010/07/08(木)(小吹隆文)

artscapeレビュー /relation/e_00009674.json s 1217769

ロトチェンコ+ステパーノワ─ロシア構成主義のまなざし

会期:2010/07/03~2010/08/29

滋賀県立近代美術館[滋賀県]

ロシア構成主義の巨匠ロトチェンコは知っていたが、彼の妻ステパーノワも優秀な作家だったとは、恥ずかしながら知らなかった。2人の代表作が見られた本展は、絵画、立体、舞台美術、書籍、ポスター、プロダクト、建築、写真など170点が並び、質・量ともに大いに充実。良い意味で予想を裏切ってくれた。作品はロシアのプーシキン美術館及び遺族の所蔵品で、前者もほとんどが遺族から寄贈されたものだ。前衛美術はソビエト時代に弾圧されたはずだが、遺族はどうやって作品を守ってきたのだろう。公にしなければ当局も黙認してくれたのか、それともレジスタンス的に密かに守り続けたのか。ロシアから来日した学芸員に質問したのだが、こちらの真意がうまく伝わらなかったのが残念だ。

2010/07/02(金)(小吹隆文)

artscapeレビュー /relation/e_00009666.json s 1217766

前衛下着道─鴨居洋子とその時代

会期:2010/04/17~2010/07/04

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

下着デザイナー、鴨居洋子(1925-1991)の展覧会。実用的だが美しくはないメリヤス下着から、実用的であり美しくもあるナイロン製の下着へ。本展は鴨居によって革新された下着を中心に、彼女が描いた絵画、岡本太郎によって撮影された下着ショウの写真や細江英公によって撮影された鴨居の人形《大人のおもちゃ》の写真、下着ショウの舞台美術を手掛けたことのある具体美術協会の《具体美術まつり》の記録映像や鴨居みずから監督した映画『女は下着でつくられる』、劇団唐ゼミによって再構成された舞台装置などが一挙に発表され、盛りだくさんの内容でたいへん見応えがあった。なかでも、際立っていたのが犬や猫など動物と自分を描いた油絵。鴨居と動物の強い結びつきを如実に物語っているが、陰鬱で寂寥感にあふれた画面からは、「死」のイメージとともに、鴨居の厭世的な気分が強く伝わってくる。だが、それは鴨居が動物を擬人化した世界の女王として君臨するというより、むしろ動物の世界に救済を求めて動物に寄り添う心理的な弱さを表わしているような気がした。そうした「弱さ」が、時代の先端を力強く切り開いてきた鴨居の前衛精神のなかに同居していたことがおもしろい。

2010/06/30(水)(福住廉)

artscapeレビュー /relation/e_00008794.json s 1217776