artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

絵本界の巨匠 モーリス・センダック

会期:2010/06/03~2010/07/13

教文館ナルニアホール[東京都]

《かいじゅうたちのいるところ》で知られる絵本作家、モーリス・センダックの展覧会。展示はリトグラフのほか、映像や絵本などで構成されていた。《まよなかのだいどころ》《わたしたちもジャックもガイもみんなホームレス》など、センダックの絵本で育った者にとっては幼年期に形成された心象風景に改めて直面させられるような気恥ずかしさを覚えてならないが、今回の展示で初めて知ったのは、センダックが他のクリエイターによる絵を積極的に模倣していたということ。ランドルフ・コールデコット、アーサー・ヒューズ、ウィンザー・マッケイ、そしてウォルト・ディズニー。先人たちのなかにセンダックを惹きつける「何か」があり、それを模倣することによって彼自身のなかに眠っているその「何か」を探り当てようとしたのだという。「巨匠」といえども、いやだからこそというべきか、このような模倣(パスティーシュ)と無縁ではなかったという事実は、ポストモダニズム以後も依然としてオリジナリティの神話が根強く残っている芸術の世界を逆に浮き彫りにしている。

2010/06/24(木)(福住廉)

ロトチェンコ+ステパーノワ ロシア構成主義のまなざし

会期:2010/04/24~2010/06/20

東京都庭園美術館[東京都]

ロシア構成主義のロトチェンコとステパーノワによる作品約170点を見せる展覧会。ドローイングやタブロー、建築、グラフィックデザイン、演劇、写真など多方面にわたる作品を見ていくと、社会建設のなかで芸術の力を発揮させようとする意欲がたしかに伝わってくる。とりわけ写真は当時の社会建設の様子とロトチェンコの実験精神を同時に物語っており、興味深かった。けれども、たとえば労働者が労働の疲れを癒すためにつくられたという「労働者クラブ」は直線と直角で構成されており、はたしてこのようなデザインで心身ともにリラックスできるのか、大いに疑問が残る。生産のための労働はともかく、それ以外の時間はダラダラと過ごしたいのが人間の性というものだ。理念を追究するあまり人間の現実から離れしてしまったというところに、社会建設という壮大な実験の失敗があるように思われた。

2010/06/16(水)(福住廉)

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活版を巡る冒険展

会期:2010/06/06~2010/06/13

CONTEXT-S[東京都]

活版についての展覧会。石神照美(陶芸家)、大友克洋(漫画家、映画監督)、坂崎千春(イラストレーター、絵本作家)、高橋和枝(イラストレーター)、中島たい子(作家)、マツバラリエ(美術家)がそれぞれ活版によって制作された作品を発表した。ペンギンのイラストレーションで知られる坂崎は、よいペンギンとわるいペンギンを描き分け、活版で印刷された私家本も販売した。中島たい子は、印刷所で活版をひとつひとつ拾い上げる経験をそのまま短編小説に仕上げた。活版への戸惑いや文字を選ぶ際の躊躇、逡巡などがそのまま活字で表現されているところが、たいへんおもしろい。

2010/06/11(金)(福住廉)

ファッション奇譚──服飾に属する危険な小選集

会期:2010/04/15~2010/06/27

神戸ファッション美術館[兵庫県]

ファッションの本質をオリジナルとコピーの問題に求めた画期的な展覧会。「フセイン・チャラヤン」展にしろ、「ラグジュアリー」展にしろ、ファッションの展覧会といえば、デザイナーによるオリジナルの「作品」に焦点を当てるばかりで、コピーの問題を考えることはほとんどないが、現在のファッションの現況を振り返ってみれば、それが決して無視できる問題ではないことは明らかだ。ハイファッションによる人気のデザインはたちまち模倣され、他のブランドによって格安で提供されることによって大衆が消費するというシステムが社会に定着しているからだ。美術家・岡本光博はこうした社会の現実を反映させた作品としてブランドバッグの生地を使ったように見える《バッタもん》というバッタの立体作品を発表したが、ルイ・ヴィトンからのクレームで展示から外されてしまうという事件が発生した。わざわざ公立美術館の展覧会に介入してくるほど、ラグジュアリーブランドにとってオリジナルとコピーの問題はことほどかように深刻な事態なのだろう。けれども、そのように踏み込んでくることによって、ファッションの今日的な問題を検証しようとした展覧会が踏みにじられたということは事実であり、じっさい《バッタもん》を見ることはできなかった。
ルイ・ヴィトンがいったいどのような考えで、こうした検閲行為に
踏み込んでいるのか、理解に苦しむ。

2010/06/06(日)(福住廉)

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横山裕一 ネオ漫画の全記録:「わたしは時間を描いている」

会期:2010/04/24~2010/06/20

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

漫画家・横山裕一の大規模な回顧展。腰の高さの台に漫画を並べ、それらを連結してトラック競技場のように一周させるというインスタレーションを見せた。漫画を読み進めていくうちにいつのまにかトラックを一周しているという仕掛けだ。永劫回帰的な時間構造を反映させたのかもしれない。その漫画は、登場人物たちが無言のまま、ただ物語が無目的に進行していく「ネオ漫画」。フキダシのなかの台詞とともに読むことに慣れた目には抵抗が少なくないが、それでもオノマトペが次第に過剰になり、ついには登場人物を後景に隠してしまうほど極端に巨大化するなど、視点を変えれば、おもしろい。漫画という形式への鋭い自覚と脱構築する意欲。そこから生まれる「ネオ漫画」が、漫画に成り代わろうとするのか、あるいはサブ・カテゴリーとして持続していくのか。

2010/06/05(土)(福住廉)

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