artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

背守り・子どもの魔よけ展

会期:2014/06/05~2014/08/23

LIXILギャラリー 1[東京都]

「背守り」とは、子どもの着物の背中につけた、魔よけのお守りのこと。着物の背中の縫い目には背後から忍び寄る魔物を防ぐ霊力が宿っていると考えられていたが、子どもの小さな着物は身幅が狭いため背縫いがない。そこで、わざわざ縫い目を施して魔よけとし、子どもの健やかな成長を願う風習が生まれた。着物を日常的に着ていた戦前の頃まで、こうした習俗は日本各地で見られたという。
本展は、その「背守り」の多彩な造形を見せる展覧会。実物の「背守り」のほか、関連する資料もあわせて60点あまりが展示されている。
一口に「背守り」といっても、その造形はさまざま。襟下にわずかな糸目を縫ったシンプルなものから、四つ菱文や桜文を刺繍したもの、あるいは端切れや長い紐を縫いつけたものまで、じつに幅広い。なかにはある種のアップリケのように押絵細工を施したものまである。たとえば襟下につけられた立体的な亀の「背守り」はなんだかやり過ぎのような気がしなくもないが、それだけ愛情が注がれているということなのだろう。他にも麻の葉模様の藍の着物に赤い糸目を縫ったものは配色が美しいし、俵で遊ぶ鼠の刺繍を入れるなどユーモアあふれるものもある。無名の、おそらくは母親たちによる、優れた限界芸術を目の当たりにできるのだ。
こうした造形は、社会の西洋化に伴い、次第に姿を消していった。「背守り」を必要としない現在の社会は、子どもを慈しむ気持ちを「背守り」のような手仕事によって表現することのない社会であり、「背守り」が依拠する霊魂観を必要としない社会でもある。私たちが失ってしまったもののありかを確かに思い知ることができる展覧会だ。

2014/06/19(木)(福住廉)

フォトフォビア アピチャッポン・ウィーラセタクン個展

会期:2014/06/14~2014/07/27

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

タイを拠点に活動する美術家で映画監督のアピチャッポン・ウィーラセタクン。彼の、映像、写真、絵画など約40点が展示された。主たる出品作品は映像で、日記的な小品から上映時間約20分の大作まで、さまざまな作品が見られる。多くの作品に共通するのは、彼が住むタイ東北部の風土、習俗、伝承をベースにしていることと、論理的なストーリー展開を半ば意図的に無視していること、現実の社会問題を想起させるイメージも挟み込まれるが、決してジャーナリスティックではないこと、などである。つまり、現実と夢の境界を写し出したかのような映像世界であり、その流れに身を浸すような鑑賞態度が求められるということだ。筆者のお気に入りは《ASHES.》という上映時間約21分の長尺作品。作品を見るうちに一種の喪失感に包まれ、深い感慨を覚えた。

2014/06/17(火)(小吹隆文)

新開地ミュージックストリート関連企画 実験工房 IN 新開地

会期:2014/05/11

神戸アートビレッジセンター[兵庫県]

1957年に開催された関西初の電子音楽コンサートの再現と、実験工房(1950年代に活動した前衛芸術家グループ)の作曲家たちのピアノコンサート、そしてアフタートークからなるこのイベント。電子音楽コンサートでは檜垣智也がアクースモニウムという装置を用いて、ピエール・シェフェール、武満徹、諸井誠&黛敏郎など8作曲家の9曲を、ピアノコンサートでは河合拓始により、武満徹、湯浅譲二、福島和夫など6作曲家の9曲を演奏した。また、アフタートークは、川崎弘二(電子音楽研究家)、能美亮士(音楽エンジニア)に檜垣、河合の4人で進められた。筆者は、これらの楽曲のうち幾つかはレコードやCDで聞き覚えがあったが、生で聞くのは初めてだった。特に電子音楽はすべてが初体験で、追体験とはいえ非常に貴重な機会だった。しかも、これだけ充実した内容に関わらず、当イベントは入場無料。主催者の英断に心から感謝する。

2014/05/11(日)(小吹隆文)

Future Beauty──日本ファッション:不連続の連続

会期:2014/03/21~2014/05/11

京都国立近代美術館[京都府]

京都国立近代美術館の「FUTURE BEAUTY」展へ。入ってから気づいたのだが、一年半前に東京都現代美術館で見た展覧会だった。とはいえ、海外巡回を経て、新しい展示や京都との関連作品も増えており、同じものではない。以前、せんだいスクール・オブ・デザインの講義で西谷真理子が紹介していた、アンリアレイジやハトラなどが同展の最後のパートで紹介されているが、新しいファッションの動きも注目していきたい。

2014/04/06(日)(五十嵐太郎)

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銀座地下街ラジオくん 声のアーカイブ展

会期:2014/03/19~2014/03/26

KANDADA 3331[東京都]

「銀座地下街ラジオくん」とは、取り壊しが決定している銀座4丁目の三原橋地下街を取材したラジオ番組。本展は、学生放送局「ざぎんWAVE」が同地下街の店主や常連客、周辺の画廊主らにインタビューして採集したさまざまな「声」を紹介したもの。
展示は、しかし、実際に音声が再生されていたわけではない。その点は惜しまれるが、それでも文字や写真、記事、図面などによって語られた地下街への思いを読むと、そこが多くの人びとにとっての憩いの場であったことがよくわかる。三原橋地下街は、次々と資本が投入される銀座の街中にあって、例外的にかつての時代の空気を吸える安息の場所だったのだ。
こうした問題はいまに始まったことではない。銀座のみならず、全国の都市は、かつてもいまも、スクラップ・アンド・ビルドの論理によって急速に塗り替えられている。むろん、その速度に相乗りする類のアートがあってもいい。だがその一方で、その奔流に打ち込まれる楔こそアートとして評価しなければならない。なぜならアートとは支配的な見方とは異なる別の視点を提供するものであり、その視角から見たもうひとつの世界のありようを私たちに垣間見せることができるからだ。きらびやかな銀座だけではない、庶民的な銀座の街並みが実在しており、しかも多くの人びとに求められているという声を紹介した本展は、そうしたアートの働きを存分に示した。

2014/03/26(水)(福住廉)