artscapeレビュー

背守り・子どもの魔よけ展

2014年07月01日号

会期:2014/06/05~2014/08/23

LIXILギャラリー 1[東京都]

「背守り」とは、子どもの着物の背中につけた、魔よけのお守りのこと。着物の背中の縫い目には背後から忍び寄る魔物を防ぐ霊力が宿っていると考えられていたが、子どもの小さな着物は身幅が狭いため背縫いがない。そこで、わざわざ縫い目を施して魔よけとし、子どもの健やかな成長を願う風習が生まれた。着物を日常的に着ていた戦前の頃まで、こうした習俗は日本各地で見られたという。
本展は、その「背守り」の多彩な造形を見せる展覧会。実物の「背守り」のほか、関連する資料もあわせて60点あまりが展示されている。
一口に「背守り」といっても、その造形はさまざま。襟下にわずかな糸目を縫ったシンプルなものから、四つ菱文や桜文を刺繍したもの、あるいは端切れや長い紐を縫いつけたものまで、じつに幅広い。なかにはある種のアップリケのように押絵細工を施したものまである。たとえば襟下につけられた立体的な亀の「背守り」はなんだかやり過ぎのような気がしなくもないが、それだけ愛情が注がれているということなのだろう。他にも麻の葉模様の藍の着物に赤い糸目を縫ったものは配色が美しいし、俵で遊ぶ鼠の刺繍を入れるなどユーモアあふれるものもある。無名の、おそらくは母親たちによる、優れた限界芸術を目の当たりにできるのだ。
こうした造形は、社会の西洋化に伴い、次第に姿を消していった。「背守り」を必要としない現在の社会は、子どもを慈しむ気持ちを「背守り」のような手仕事によって表現することのない社会であり、「背守り」が依拠する霊魂観を必要としない社会でもある。私たちが失ってしまったもののありかを確かに思い知ることができる展覧会だ。

2014/06/19(木)(福住廉)

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