artscapeレビュー

その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー

テマヒマ展 東北の食と住

会期:2012/04/27~2012/08/26

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

東日本大震災以後、原子力発電に依存した社会の仕組みが根底から見直されている。戦後社会の繁栄がある程度原子力エネルギーに由来していることは事実だとしても、その延長線上に、これからの社会を想像することはもはやできない。では、いったいどこに向かうべきなのか。それを考える手がかりは、もしかしたら戦後社会の成長の陰に隠されているのではないだろうか。
本展は、東北各地の「食と住」に焦点を当てた企画展。グラフィックデザイナーの佐藤卓とプロダクトデザイナーの深澤直人を中心にしたチームが東北各地の暮らしを取材、その映像と事物を会場で展示した。広い会場には、麩、凍り豆腐、駄菓子、きりたんぽ、会津桐下駄、南部鉄器などが整然と陳列され、それはまるで博物館のようだった。
一方映像は、りんご剪定鋏やマタタビ細工、笹巻などを手間暇をかけて制作する工程を美しく、しかも簡潔に映し出していた。それらを見ていると、東北各地におけるものづくりが風土と密接に関わっていることが如実に感じられたが、それは、現在の都市生活がいかに風土と切り離されているかを裏書きしていた。
こうした手仕事は、都市生活を牛耳る便利という名の合理性からは切り捨てられがちである。しかし、本展で紹介されていたように、それが私たちの身体性にもとづきながら風土のなかで確かに育まれていることを思うと、この手仕事を不便の名のもとで十把一絡げに切り捨てることはできない。むしろ、これは便利という名の合理性とは異なる水準にある、別の合理性として捉え返すことが必要なのではないか。もっと言えば、風土と身体に根づいているという点で、それは都市の文化には到底望めない、豊かな文化、豊かなアートなのではないか。
本展がやり遂げようとしていたのは、民俗をアートとして見せることである。だが、展示を見終わって改めて思い知るのは、民俗そのものがアートだったという厳然たる事実である。西洋由来のアートを輸入するより前に、私たちの風土のなかにそれはすでにあったのだ。厳しい環境を豊かに生きていくために、暮らしを美しく彩る技術。今後ますます日本社会が貧しくなっていくことが予想される昨今、これからの私たちにとっては、いわば「裏日本」の思想が目印になるのではないだろうか。

2012/08/24(金)(福住廉)

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山下陽光:アトム書房トークイベント

会期:2012/08/20

素人の乱12号店[東京都]

山下陽光が最近熱心に調査している「アトム書房」とは、終戦直後から広島の原爆ドーム前で開かれた古書店。古書のほか、原爆で破壊された家屋の瓦礫や熱で曲げられた瓶などを販売していたらしい。
興味深いのは、「Book seller Atom」という看板を掲げていたように、おもな顧客として進駐軍を想定していたことだ。山下によれば、「アトム書房」の背景には、原爆を投下したアメリカ軍の軍人たちに、当の原爆によって破壊されたモノを、原爆による全壊から辛うじて免れた原爆ドームの目前で売りつける、「ゲス」な根性があったという。
落とされた「原爆」を、「Atom」として打ち返す、明確な反逆精神。こうした美しくも、たくましい活動は、広島が平和都市として整備されていくなかで、そして原子力エネルギーの平和利用という政策のなかで歴史の底に隠されていき、やがて見えなくなってしまった。
それを、アマチュアの探究心によって丹念に掘り起こした山下の取り組みは、最大限に評価されるべきである。なぜなら、どんな専門家も、山下の調査に匹敵する業績を残すことができていないからであり、山下が素早く動かなければ、(佐藤修悦がそうだったように)私たちは「アトム書房」という存在にすら気がつかなかったからだ。
山下と、彼とともに調査しているダダオのトークを聞いていると、2人の突撃的調査によって、プロとアマを問わず、さまざまな関係者が彼らの繰り出す渦巻きに徐々に巻き込まれていき、それまで見えなかった歴史の痕跡や、無関係だと思われていた関係性が、鮮やかに浮き彫りにされていく様子が伝わってくる。その過程がなんともおもしろい。
しかも、それはたんに知られざる歴史の発掘という次元にとどまるわけではなく、そこには今日的なアクチュアリティーがたしかにある。原発の甚大な被害に苛まれている現在、「アトム書房」という実践は、被災者の支援活動や脱原発デモという水準とは別に、私たちがいまやらなければならないことを、歴史の奥底から示しているからだ。
この在野の研究は、おそらく今後も継続されるだろうし、今以上に広範囲の人びとを巻き込んだ集団的な研究になることも予想される。それをまとめる著作なり映画なり展覧会なり、いずれかのメディアを用意するのが、専門家の仕事だろう。

2012/08/20(月)(福住廉)

館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技

会期:2012/07/10~2012/10/08

東京都現代美術館 企画展示室1F・B2F[東京都]

庵野秀明の特撮博物館は、CGの時代にあえて手によるモノづくりのおもしろさをストレートに伝える好企画だ。壊されるための建築模型が大量に並ぶ。ただ初期特撮の貴重な資料はあまり残っておらず、展示物も近年が多い。どこかで常設で存在して欲しい内容である。新作の映像『巨神兵、東京に現る』も短編ながら、庵野テイスト全開の鮮烈な印象を残した。これもCGなどに頼らず、特撮の技術を駆使し、後半の展示で紹介している。

2012/08/16(木)(五十嵐太郎)

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佃祭・住吉神社例大祭

会期:2012/08/03~2012/08/06

佃島一帯[東京都]

東京は佃島恒例の祭り。3年に1度の本祭りが4日間にわたっておこなわれた。佃島の街中を神輿が練り歩き、その道筋には水を入れたバケツが大量に用意され、神輿が通るたびに盛んに水がかけられていた。法被姿も観光客も関係なく、みんなずぶぬれだが、そのことがまった気にならないほど、神輿から放たれる熱気がすさまじい。街中には数多くの屋台が立ち並び、道中には見上げるほど巨大な大幟が屹立していたが、背景に映り込む超高層マンションに負けないほどの存在感だ。仮設された小屋では佃囃子が演奏され、街中にはいつまでも太鼓と笛の音が鳴り響いていた。そのなかで、人びとは神輿をかつぎ、水をかけ、屋台に並び、川沿いでビールを飲みながら涼をとっていた。今日のアートプロジェクトが目指している幸福な風景が、この祭りに現われていたように思えてならない。

2012/08/05(日)(福住廉)

脱原発国会大包囲デモ

会期:2012/07/29

国会議事堂周辺[東京都]

国会議事堂を包囲した脱原発デモ。推定で20万人ほどが参加した。とりわけ国会議事堂の正面の車道には、文字どおり身動きが取れないほどの人が集まった。多くの参加者が懐中電灯やペンライトを持ち寄ったため、群集のなかにはおびただしい数の灯りが点滅していたが、その光は原発の危険性に恐怖や不安を抱く人びとの表われだった。だが、これまでのデモと同じように、このほかにもデモの随所ではさまざまなパフォーマンスが繰り広げられた。今回初めて見たのは、発泡スチロールを組み立てた神輿のパフォーマンス。表面の水色の模様から察すると、どうやらフクイチを模しているらしい。しかも一面はその模様によって野田首相の顔を描いているようだ。若者たちがこの神輿を路面に置くと、子どもたちが勢いよく破壊し始め、神輿はあっという間に骨組みだけになってしまった。爆発事故を再現しているのかと思ったら、それだけではなかった。あたり一面に飛び散った発泡スチロールの残骸を、周囲の野次馬たちが拾い集め、きれいに掃除したのだ。どこかから「政府はこれくらいちゃんと除染しろ!」と野次が飛ぶ。たしかに、そうだろう。だが、これは原発の爆発事故から除染作業までの過程を再現したパフォーマンスではない。そうではなく、そのすべての過程に私たちを巻き込むことで、それが決して他人事ではなく、むしろ私たち自身の問題であることを明確に示してみせたのだ。

2012/07/29(日)(福住廉)